旅先では散髪をしよう 

 どたどたしている間にあっというまに6月が終わろうとしている。ひと月もブログの更新が滞ってしまった。

 心覚えに6月の記録を。

 上旬は大きなところでは姫路でEINSHOPのアウトレット販売があった。主催は播磨リビング新聞社。播磨リビング新聞というのはご存知、無料で配布される、主に主婦層向けの新聞型広告紙である。日曜日などにポストに入っているアレですね。無料ですが被読率がとても高く、女性への影響力たるやあなどれない。昨年は加古川で同紙と協力してアウトレット市を開いたところ、朝から商品が奪い合いになり、午前中にいきなり釣り銭が払底、楽勝モードで臨んでいたスタッフは右往左往し、商品の補充に倉庫までとんぼ返りしながらとんでもない数のレジ回数をたたき出した。

 今回も期待したのだが、加古川ほどの騒ぎにはならず。

 今回姫路のアウトレットイベントは加古川と違って「雑貨」を全面におしだした販売ではなかった。女性にとって「雑貨」という言葉の持つ魔力はすごい。「雑貨屋やってるんです」と自己紹介すると、たいてい顔を紅潮させて「えー、そうなんですか!」と飛びついてくれる。

 「雑貨屋」というのは変なことばで、肉屋や八百屋やブティックなどとちがって何を売っているか明言していない。私が主に担当してきたのはEINSHOPオンラインというWEB販売部なのだけれど、WEB雑貨店の悩みどころは「雑貨」では範囲が広すぎて検索してもらうことができないということ。ブランド名や商品名ならピタリと検索してもらえるが「雑貨」ではあまりに弱すぎるのである。

 商品はたくさんある。いや、バッグ、ポーチ、ソックス、ブランケット、玄関マット、指輪、ブックエンド、ペンダント、ハンカチ、キーホルダー……なんでもありすぎるうえ、ヨーロッパ雑貨が好きな人にエスニック雑貨を勧めても(実際の使用にはまったく問題がないのに)なんの興味も示してもらえない。ヨーロッパのものでもフランス雑貨とドイツ、北欧、南欧風など、ほとんど曲芸的にまで微妙な差異をかぎ分けて購入行動を起こす、そういう日本の女性を相手に商品を探して提案するのが仕事である。

 ひらきなおって「それなら何を売ってもええということですな」とやりだしたのがサクランボの販売。「雑貨屋が果物を売るの?」という反応が実際にお客さんからもあるのだが、昔は田舎で干し柿とタバコを売っている店こそが「雑貨屋」と呼ばれていたのだからまあいいのである。そんな雑貨屋はいまは郊外型のスーパーとコンビニに駆逐されてしまったけれど。


 EINSHOPはいつもお買い物に来てくださるお客さんに手書きの手紙を書くことにした。このプロジェクトのスタートも今月の仕事。さっそくいくつかお客さんからお返事をいただき、嬉しいかぎり。こういうアナログ仕事を大事にしていこう。手紙を一気に30通書くのは結構ホネが折れた。でもそういう仕事のほうが好きだ。


 12日には昨年発売したEINSHOPオンラインでのサクランボ販売をメールマガジンの読者を対象に一足先にスタート。昨年買ってくれたお客さんがたくさん再注文をくださる。

 私自身がそうだったが、サクランボを関西の人はあまり食べたことがない。大産地の山形県は東京からなら車で4時間の距離だが、関西と東北地方はかなり距離がある。物理的にも心理的にも。そして、サクランボは収穫期がたった1週間から10日。手元に届いた翌日には腐り始めるという商品だ。

 その間隙を産直で埋めてみたら、たくさんの方に喜ばれた。商売人冥利に尽きる。生産農家は直販をしようとしてもWEBの販売は手慣れた業者に牛耳られてきているし、結局テクニックを持たない農家は農協に出すしかない。


 13日から15日は島根県に弟+イトコ+親友2人の全員男連中による恒例行事「春男路」(はるだんじ)で島根県石見銀山へ極楽旅行。

 毎年5月後半の日本の最高の季節に近場の旅行に行くのである。去年は滋賀湖西。その前は郡上八幡。古き良き日本を訪ねるため、あえてスピードの出ない軽自動車に乗り込んで、しょっちゅう車をとめつつ民家の軒の造作や田んぼの畝の曲線やていねいに芝刈りされた里山の風景をめでながら行き当たりばったりに旅をする。今年はメンバーのスケジュールの都合で「夏男路」になってしまった。

 石見銀山の銀の積み出し港だったヘンな名前の温泉津温泉(ゆのつおんせん)で2泊。若女将で有名になった吉田屋に泊まり、石見銀山の遺跡を訪ねて街を歩いた。

 温泉津温泉に着いた直後に夕涼みにでかけた旅仲間をよそに理髪店「みついや」に入る。旅の情報収集は現地で散髪屋に入るのが最上であることを知る人はあまりいない。

 田舎の理髪店には近所の魚屋のおっさんから地元政治家、やくざから鼻垂れガキまでがまんべんなく来る。つまり、地元におけるあらゆる分野の情報にWikipediaのように詳しいのが理髪店主なのである。しかも、田舎の人はきれい好きなのでひと月に1回はやって来る。情報の自動更新装置がついているようなものだ。

 理髪店主は練れた人が多い。触れるのも冷や汗の出るようなカミソリを客ののど元に当てて活計としているためであろう。抑制的でバランスのとれた精神の持ち主が多い。どんな客にも快適に店内に1時間弱滞在してもらわなくてはいけない。特定の政治や宗教的立場などに偏することなく話を続けることができることが理髪技術以上に重要だからであろう。

 もうひとつ旅人が理髪店に入る利点としていきなり「観光客」から地元住民のような扱いを受けることができる点は大きい。どんな繁華な観光地であろうと、散髪屋にいきなり入る観光客はいない。理髪店は地元住民だけを対象に営業しているため、観光地にあってもまったく観光客ズレしていないのである。土産物を売りつける気もなければ、特別扱いする気もない。ひたすら髪を切って快適な空間を演出してくれる。こちらが地元のことを知りたければその膨大なリソースからこころよく知恵を貸してくれる。

 そんなわけでこの時期の温泉津ではカンパチやトビウオ、なかでも背中の角張ったカクアゴの刺し身がとくに美味なことや、地元に銘酒「亀五郎」があること、温泉津は銀や温泉のみならず良石「福光石」の産地としても名をはせた地であったこと、吉田屋の若女将がすでに2代目にひきつがれていることなどを知り、散髪代だけを払って多謝。辞して寄った魚屋で「刺し身にできるカクアゴはありますか」「いやあ、今日は漁がないから、明日なら入るけどね」などとさっそく地元的話題がはずむ。

 こういうメリットがあるから、丸坊主はやめられない。


[2009/07/01 00:06] よもやまコメント | TB(0) | CM(2)

カワウソに驚愕の接近 

 17日、10日間の韓国行きから帰国する。今回は韓国のカワウソ保護センター訪問と韓国南部の調査地でのフィールドワークを兼ねたたいへんぜいたくなツアーだった。

 特筆すべきは、なんといっても飛躍的進歩をみたフィールドワークの結果だろう。

 6夜にわたっておこなったカワウソの直接目視観察の結果は、なんと5夜でカワウソの直接観察に成功するというすばらしい打率をたたきだした。ほとんど毎晩カワウソが見れたのである。ビデオでの総撮影時間は詳細は確認できてはいないが、1時間をはるかに超えたのではなかろうか。

 しかも、その観察結果と昼間のフンと足跡を丹念に追うフィールドワークを総合した結果、カワウソのねぐらのある沢を2カ所特定できたのである。

 カワウソは川や湖、海で生きる動物だと思われているが、山をも活動の範囲内にしている。驚いたことに細い水路をさかのぼり続けて約2キロ、山すそにある水源池ちかくまで活動の範囲に入っていることがわかった。水路にほとんど水はない。カワウソは走るのがそれほど得意でなく、ピョコタンピョコタンとゆっくり走る。それでも野犬などに襲われる危険をかえりみずに夜な夜な走り回っているのである。

 今回の調査で川の本流だけを見ていてはまったく生態の解明できない動物であることがはっきりと確認できた。活動の範囲の広さがあまりに衝撃的だったため、今後の調査は手法に「一考を要する」どころか「根本的に見直す」必要がでてきている。

 そんな「ヤマウソ」ともいえる動物がどこにねぐらを持っているのか、これまで特定するのはひじょうに難しかった。フンを追って細流に分け入ってもあるていど追ったところで痕跡は消えてしまうのだ。本流とちがい、細流になればなるほど岩や石が多くなり足跡は残りにくい。フンもまばらになって見つけにくくなる。しかも細長い動物だけに小さな岩のスキマなど山にはねぐらにできる場所が無限にある。

 しかし今回は夜間観察が決め手となった。でカワウソが日暮れ前後に現れる場所を何度も繰り返し(これが大事)目撃できたことが、ねぐらの特定に大きな役割を果たしたのである。



 そして最大の驚きは小雨のそぼ降る15日午後8時すぎに起こった。

 前夜と同じく山から降りてくる個体を撮影するため、夜の早い時間にカワウソの巣穴がある沢の前で待ち伏せを敢行することになった。現地でライトとカメラのセッティングが終わったのが1900時ちょうど。そぼ降る雨から帽子でカメラを守りつつ、岩陰に隠れての待ちとなった。

 この日は日中の調査でもろくなことがなかった。川の中で横倒しになるほどの大転倒を喫してカメラを浸水させたり、帽子を車の屋根に置いたまま発進して吹き飛ばし後続の車に踏まれたり、夜間撮影に向かう途中にも川岸の腐った水に足を滑らせて踏み込んでしまったりとまったく踏んだり蹴ったり。このぶんでは撮影もうまくいかないだろうなと思っていたわけである。

 ところが1時間を過ぎた夜8時5分。

 カワウソがいつもと同じ右岸の砂浜に姿を現した。水に入ると、前夜までとまったく同じように、わたしの潜んでいる上流へ向かって泳いでくる。わたしが身を寄せている大岩から砂浜までは約50メートル。信頼するライカの8倍双眼鏡で見ていると、魚を捕りながら川をさかのぼってくる姿がはっきりと確認できる。こちらにはまったく気付いていない。

 カメラのフォーカスは目の前8メートルあたりの川の本流に固定してある。わたしの傍らを通過して川をさかのぼって行くカワウソを横から何枚か撮影しようというもくろみだ。川筋は下流から直線的にこちらへむかってきたあと、弧を描くように向こう岸へふくらむ。その弧の部分で何枚か撮影したいとおもっていた。

 ところが直線部分を泳ぎ切ったカワウソは、意に反してこちらへむかって傍流のほうをまっすぐさかのぼって来る。あっというまに距離5メートル。こちらにどんどん近寄ってきてしまうといくら強力なライトで照らしているとはいえ夜間なのでピントも合わせづらく、水中に潜ると高倍率のレンズをのぞいていると見失いがちになる。しかも近づいてこられると「もうちょっとこっちへ来い」という欲もはたらき、なかなかシャッターが切れない。

 まごついているうちに足元3メートル、2メートルと近づき、80─200ミリの望遠レンズではとても捕らえられない近さになってしまった。たまらずファインダーから目を離して足元を見てみると──

 カワウソはわたしがもたれている大岩の下に頭を突っ込んでいる。そのカワウソこげ茶色の背中とわたしの白いスニーカーは40センチしか離れていない!

 あまりのことに足をすこし動かしてしまったのが運の尽き。わずかな音にカワウソはおどろいて身を翻し、下流へと逃げ去ってしまった。途中陸に上がって走ったところでストロボ一閃。とてもピントは合っていないだろうが、走りさる姿は写っているかもしれない。

 カワウソの姿をふたたび双眼鏡で見送ったあとは、心臓の鼓動をずきずきと感じながらしばらく呆然と立ちつくすしかなかったのだった。




[2009/05/22 01:40] フィールドニュース | TB(0) | CM(2)

業務連絡 

 ブログに迷惑コメントが多いので、承認制にしました。これからはちょっと掲載が遅れるかもしれませんが、ご了承ください。できるだけチェックするようにしますので。

 なぜ今ごろかというと、本日から10日間、韓国にカワウソ保護施設取材行と山中のフィールドワークに出かけるので、その間まったくチェックできないからです。過去にも、しばらくチェックしていないとコメント欄が迷惑コメントばかりになっていたことがありました。

 コメントは即反映するほうがほんとうはいいのだけれど、しかたなく次善の策です。

 これからもご愛顧のほどよろしくおねがいします。




[2009/05/07 04:02] よもやまコメント | TB(0) | CM(0)