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ヘッドランプはペツルのピクサシリーズがお薦め 

 キャンプでヘッドランプを使うのは、椎名誠の「あやしい探検隊」あたりが嚆矢だったのではなかろうか。わたしがキャンプを始めたころは珍しかったものだが、いまや完全に当たり前の装備になった。子どものミミカキのために屋内で使っているという知人もいる。

 最近は完全にLEDの独壇場になってしまい、ホームセンターでも明るくて安いものがたくさん出回るようになった。しかしわたしはLEDが普及しはじめてからもかなり頑固に豆電球式を使っていたものだ。2000ヒトケタ年代までは韓国でのカワウソのフィールドワークでも豆電球タイプである。

 というのも、アラスカや南米の僻地を下る超長距離カヤックツーリングをやっていたので、「壊れたらおしまい」式の電球の替えが効かないものはまったく信用していなかったからである。豆電球ならばブラジルの田舎町でも替電球を補充することができ、じっさいに助かったこともある。いざとなったら空き缶で接点を自作しても修理がきくような超単純な構造のものを好んで使っていた。電池はもちろん世界中どこでも売っている単3電池だ。これがベストだと思っていた。

 たしかに暗かったが、こういうシンプルさを好んでいたもうひとつの理由に、手元照明としてしかヘッドランプを使用していなかったことがある。中長距離のハイパワー照明としては米国の警察特殊部隊が使うSureFireという強力小形懐中電灯を使っていたので、電源形態に制約の多いヘッドランプを強力なものにする必要がなかったのだ。

 ところが、いよいよ豆電球は電源の持続時間が大きく見劣りするようになってきたので数年前からLEDに変更。以降パナソニックやモンベルなどいくつかの製品を使ってきたが、結局最終的に落ち着いたのはペツルのピクサシリーズである。



ピクサ プロフェッショナルシリーズ
http://www.alteria.co.jp/headlamp/product/professional/pixa/


 重い。近年の軽量ヘッドランプに比べると重量はほぼ倍。160グラムある。というのも作業用のランプだからである。夜間や狭いところに潜り込んで仕事をする作業のために作られている。

 そのかわりとにかく頑丈だ。防滴ではなく防水だし、防塵、化学薬品耐性、耐落下衝撃、低温・高温すべて考慮してある。だからボディが大柄なわけだ。

 電池がどこでも手に入れやすい単3電池2本なのもポイントが高い(偶数なのもポイント。電池はたいてい2本/4本売りなので3本使いは現地調達する場合けっこうめんどうだったりする)。

 ヘッドランプの電球を覆う透明樹脂部はパッキングしたときに傷が付きやすいのだが、ごちゃごちゃした工具箱に放り込まれることを想定してあるピクサはこの点にも工夫があり、樹脂部分を回転させると外側に露出させずに収納することができる。しかもこの段階でボタンにロックがかかり、バッグの中で押されて点灯するということがない。ゴロついたキャンプ機材をたくさん詰め込んで運んでいると、プッシュ式のライトはけっこうな頻度でこの誤動作が起きる。

 ヘルメットに直接装着するためのストラップやヘルメットそのものもある。また、ストラップから外して置き型照明としても使える。こういう「幾通りにも使える」機能は屋外ではうれしいものだ。

 WEBショップのレビューでは「重い」「登山には使えない」などというレビューが目に付くが、信頼性の点で市場のほかの製品を圧倒的に凌駕している。

「どっちみち買うならいい物を長く」
「とにかく頑丈なのがいちばん」
「現場作業的な使い方をよくする」
「使う頻度がとにかく高い」

などの傾きがある人にはぴったりの道具になると思う。重さはこんなものだと思えば慣れてしまうし、頭の周りをロープが行き交うような現場でなければ、大柄のボディも気にならないだろう。

 タイプは3種類。手元用のピクサ1、手元+中距離のピクサ2、手元+中距離+長距離のピクサ3である。わたしはピクサ1を購入し、たいへん気に入ったのでピクサ3も手に入れた。

 これでしばらくはヘッドランプで悩むことはないだろう。


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[2014/09/03 23:57] フィールドワーク道具考 | トラックバック(-) | コメント(-)

バーダー誌3月号は双眼鏡特集 

IMG_6551.jpg


 バードウォッチング専門月刊誌『BIRDER』(バーダー、文一総合出版)の最新3月号の特集は「双眼鏡を使いこなそう」です。

 春から一気に楽しくなってくる鳥見趣味。さいきん各メーカーから新機種が投入されたので、タイミングのいい特集になっています。



 双眼鏡って大昔からほとんど機能的に変わっていない。1910年ごろの双眼鏡も、ほとんど今の双眼鏡と変わらない形をしている。基本設計がこんなに変わらないものもめずらしいのではないだろうか。

 だけど性能はずいぶん進化している。

 レンズのコーティングやガラスの透過率など、各社細かいところに変更を加える。地味な業界なのでデジタルカメラほどの頻度ではなく、大きなモデルチェンジは10年に1回くらいだ。それが積み重なって、各社の高性能双眼鏡はとんでもないハイレベルに達している。

 しかし残念ながらハイレベルすぎて

「旅行に出かけたときに風景を見たい」

というていどの使い方ではあまり違いが明確に出ない。たとえば各社の最高級機種を店頭で並べて覗かせもらっても、そうとう慣れた人でないとメーカーごとの違いはまったく分からないと思う。

 たまたまわたしはやっているのが夜間のカワウソの野外調査という「双眼鏡の限界に挑戦」みたいな現場なので、分かりやすいんだけど。昼間の調査をやってるだけだったら、双眼鏡にあまり興味はわかなかっただろうな。

 カメラのレンズの善し悪しって分かります?わたしはじつは分からないんです。同じ写真の撮り比べなんてふつうやりませんしね。

 でも双眼鏡はいいレンズと悪いレンズはもう一目瞭然。目玉で直に見るからほんとうによく分かります。複数人でフィールドに行くと、双眼鏡ののぞき比べも簡単にできるので「いいものはいいんだな」というのもすぐに分かる。

 レンズや光学を知りたかったら、双眼鏡はいい窓口になりますよ。3─4万円も出せば何十年も使えるすばらしい中級機が手に入ります。単純だから壊れもしない。



 外出するときは、カメラではなく双眼鏡を下げて出かけるようになってからずいぶんたちます。そのほうが経験が濃くなるんですよ。

 写真は記録・共有するための道具で、双眼鏡は今を楽しむための道具です。カメラより双眼鏡のほうが一期一会の精神に近い。対象をしっかり見るようになります。

 あと2カ月もしたら新緑の季節です。寝そべってちょっといい双眼鏡で木々の梢をゆっくり見てみてください。そう、ゆっくり。ぱっと一瞥するだけじゃなく、細部までゆっくり。

 あまりの美しさに驚きますよ。

────────────────────────────────────────
追記(130219)

Birderは野鳥観察の専門誌で、一般書店では手に入れるのがひじょうに難しい。雑誌のfujisanがいちばん手に入れやすいかと思います。

http://www.fujisan.co.jp/product/2066/



刃物を研ぐ 


 刃物を日常的に研ぐ人ってあまり見たことがない。

 え、料理人だけど研がない?そんな人ふつうにいるでしょうね。研ぐっていってもチョンチョンパで棒ヤスリでやってるだけの人もたくさんいるし。それでもあるていど切れるからね。

 わたしはそもそも父方の先祖が刃物産地である兵庫県三木市の出身であることもあって、金物・刃物とは縁が深い。でも子供のころから家業を手伝っていたわけではなかった。

 研ぎを覚えたのは自分で19歳のとき。ラーメン屋のバイトをしているうちに店の包丁を自主的に研ぎ始めたのが最初でした。ビッカビカに研ぎ上げた包丁でカンナをかけたようなネギのみじん切りを作るのが楽しかったな。

 研ぎではなく刃物じたい、ひいては鉄そのものを「知った」のは高知県の四万十川でした。

 刃物と鉄の師匠・岡田光紀さんと出会い、刃物の作り方から研ぎ方、果ては砂鉄から鉄そのものを作る方法までをナマで教えてもらい、完全に開眼してしまった。

 そのときまではカヌーツーリングに十徳ナイフだけを持って歩いていたんですが、岡田さんが打った小刀を1本常に持ち歩くようになった。魚をさばくのにも獣の解体にも料理にも工作にも雑用にも、思えばもう17年もいっしょにあちこち歩いてきた。

IMG_6516.jpg


 写真の左がその小刀。だいぶ研ぎ減らしてヘンに薄刃になってしまったので、今年短く整えてもらおうと思う。ちなみにネギは試し切り用。

 右は同じく岡田さんが最晩年に作った菜切り包丁。なんで薄刃の菜切り包丁なんか作ったんだろうか。

 過日この包丁を研いでよくわかった。びっくりするくらい研ぎやすい。あっという間に刃が付く。

「そうそう、どんどん研いで使ってもらうように作っちょうけん」

サラリーマンから転じて刃物鍛冶になった岡田さんは、観賞用ではなくいつも実用のための刃物を作っていた。この遺作、まさに語りかけてくるような刃物だ。



ホンダスーパーカブ50、フルモデルチェンジ 

 年来の愛車であるスーパーカブ50がフルモデルチェンジした。

http://www.honda.co.jp/SUPERCUB/

 買ったのは大学を休学していたときだった。世界旅行を目指していたおれは、新聞配達と土方を掛け持ちすることに決めた。1日の肉体労働1日12時間。こんなに働くことはもうないかもしれないくらい、体がバラバラになるかと思うくらい働いた。

 新聞配達は特に気に入った。配れば配るほど給料が上がるという給与形態を採用していた読売新聞に即決した。

 関西では読売新聞は人気がない。朝日のほうが強いのだ。必然的に購読者宅から購読者宅までの距離が長い。

 その読売新聞を最終的には朝刊で450部配達していたといえば、どれくらいのムチャか分かる人は分かるだろう。1分間に2.5部。晴れの日はいい。雨や雪の日が大変なのだ。軽量のスニーカーをはき、ほとんど全区間ランニングして配った。「もっと配達地区をください」とずっとお願いしていた。

 このときに乗っていたのがヤマハのMateというカブ型の2サイクルバイクだった。大阪北部の山がちな土地だったので、読売はパンチ力のある2サイクルを採用していた。この性能に惚れ込んでしまい、より燃費のいいホンダのスーパーカブ50デラックスをほとんど衝動買いしたのだった。

 デラックス前カゴと後ろの荷台が大きく荷物が積みやすく、もちろん音が静か。ツーリングに出ると、燃費は1リットルで50キロをはるかに超える。400円で200キロ以上走ってしまうのである。ほとんど無料移動装置のようだった。原付は各地のフェリーにも格安で乗せてくれる。

 バイク屋のおやっさんは、「大事にしたいバイクは1000キロごとにオイルを替えるといい」と教えてくれた。そうすることにした。1回たった1000円だし。

「スーパーカブは1000キロごとにオイルを替えると無限の生命を得る」

と誰かがどこかで書いていたのはほんとうだった。このカブがまだ手元にあり、買ったのは1997年の1月あたり。なんと15年間もおれの手元にあるのだが、驚いたことに1回も壊れない。走行距離は2万キロ。外国在住で乗らない期間がけっこうあったりしたのだが、何一つ不具合知らずだ。

 今日もキック一発で快調に始動して会社に行ってきた。初夏はとくに機嫌がよく、フルスロットルで時速70キロくらい出る。

 災害時にも威力を発揮するこの道具、世界でたしか3000万台が売れたそうだ。こんなに安くて高付加価値の製品はほかにないのではなかろうかと思う。

 今回のモデルチェンジは、なんだかアジアの世界戦略車に近づいてしまったようでちょっとセクシーさに欠ける。好きじゃない。

 でも、このバイクに何度も助けてもらい、元気にしてもらったことはまちがいがない。何台か手元のバイクが入れ替わったけれど、このスーパーカブ50だけは入れ替える日が来る気がぜんぜんしない。

 ロードバイク(自転車)もいいけれど、カブで日本の最先端技術の一端に触れるのもいいですよ。問いかければ問いかけるほど、返事をしてくれる道具です。



レンズ考 

 奥の深さには2種類が存在する。

「手続きが複雑で奥が深い」
「手続きが単純で奥が深い」

 対象物を間接的に観察するという役割は同じながら、カメラのレンズは前者で、双眼鏡のレンズは後者になる。

 カメラのレンズの善し悪しはなかなか素人には分からない。わたしもカメラ歴は15年以上にわたるのだが、未だにぜんぜん分かりかねる。なぜなら、対象物の像が肉眼に入るまでに変更を加えられる過程が以下のように長いからだ。

対象物

レンズ

撮影操作(フォーカスと絞りとシャッタースピード)

フィルム(デジタルの場合は感光素子)

現像作業(ポジはここまで。デジタルは画像エンジンの処理)

プリント作業(写真屋もしくは自宅プリンター)

写真(紙。デジタルはたいてい液晶画面)

肉眼

 いくらいいレンズといっても、そもそも撮影が下手だったり現像マンがダメだったり、また表示する液晶やプリンタや紙質がまずかったりでは良さは分かりにくい。

 この変更過程の多さこそが写真の無限のバリエーションを生むのであるが、ひとたびシビアなレンズ比較をやろうとすると、同じ対象物を同じ場所で同じ絞り値とシャッタースピードで撮影し、同じ条件で現像して……というはなはだ面倒な作業になってくる。カメラ誌ではそういった比較記事を載せることも多いが、通常人が道具としてカメラとレンズを使うときにそこまでの吟味はしない。毎日と朝日と読売を並べて読むのは新聞人だけであるのに似ている。

 ところが、双眼鏡はこの過程がひじょうに短い。

対象物

レンズ

肉眼

 カメラ店の双眼鏡コーナーでいくつか見せてもらえばすぐ分かる。安い製品は見え方がいかにも鈍重で、高価なのはあまりに鮮鋭な見え味にまさに息をのむことになる。

 カメラは何台も持っていて、資材代金を含めるとこれまでに数百万円の大枚をはたいてきたにもかかわらず、まだレンズが分からないなどと言っている。なのに、双眼鏡はSWAROVSKIの7倍x42mmというわりに大きな口径の双眼鏡を1本手に入れただけで、いいレンズの味や性能というのはこういうものかというのがよく分かった。

 それが証拠に、この高級双眼鏡を使い始めてから自分のかけている眼鏡のレンズの低級なのに気づかされ、あわてて買い換えた。双眼鏡は裸眼でも眼鏡をかけてもピント合わせによって同じように観察ができるのだが、眼鏡を使うと明白に映像が乱れるのである。

 この双眼鏡1本にかけた値段は15万円で、常識的には遠めがね1本の値段とはとても考えられない高額品の部類である。

 しかし、双眼鏡は各倍率を買いそろえる必要性が低い。何を見るにしてもおよそ8倍あたりの倍率が使いやすく、10倍ですら手持ち観察には気をつかうくらいの拡大率になってしまう。カメラのレンズのように本体に合わせて買い換えることもしなくていい。頻繁なモデルチェンジもせず、機構も単純なので壊れもしない。

 何回飲んでも考え込んでしまう深刻なワインではなく、うまい岩清水を飲んで思わず嘆息するような、双眼鏡はそういう道具だと思う。



双眼鏡指南 

 世紀の変わり目あたりからカワウソの調査に行くようになり、しばらくしてからLeicaの双眼鏡ウルトラビット8x20BLを手に入れ、いらい旅行やスポーツ観戦はもちろん、ちょっとした外出にもこのコンパクトでシックな双眼鏡を持って出かけるようになった。

 カメラだけを持って歩くより、旅の楽しみは倍増した。遠くのものを見るためだけではなく、近くのものをより詳細にみることができるのも双眼鏡の利点だからだ。旅先では美術館、博物館はもちろん、ちょっとした民家の屋根の鬼瓦や仏像や建築物を見ることが多いが、それらを仔細に見物するのにひじょうに役立つ。たんに遠くの看板を読むだけでも無駄足を省ける。

「撮影禁止」

と書いてある仏像や美術品でも、双眼鏡で覗くのをとがめられることはない。あと、ひじょうに役立つのが、たとえば列車内ですごい美人を発見してしまったときだ。あまりじろじろ見るのも気が引ける。しかし、見たい。そういうときは双眼鏡でその美しさを堪能してしまおう。相手はまさかこの距離で自分が見られているとは思っていないので、思い切り鑑賞できる。

 旅行の道具としてはもちろんだが、日常の道具として双眼鏡はもっと見直されていいと思う。

 しかし、注意がある。

 こういう生活や旅を楽しむための双眼鏡としては、ぜったいに買ってはいけないものがあるのだ。以下の条件にひとつでも当てはまるものは買ってはいけない。

一、やたら安い。1万円以下。
一、倍率が10倍より高い。
一、ズーム双眼鏡。

日曜日の新聞の折り込み広告に載っているような双眼鏡は三拍子そろってしまっているようなのがよくある。まずダメだ。お父さんが興味を示していたら全力で止めよう。

 双眼鏡のスペックは7×42というふうに2つの数字で表されている。はじめの数字が倍率で、あとのが対物レンズの口径だ。バードウォッチングの愛好家は8─10倍をよく使う。なぜそんな低倍率のものを使うのかというと、高倍率の双眼鏡は手ブレで見ていられないからである。初心者は8倍以下が手ごろだろう。倍率が高いものがほしいなら、手ブレ補正機能のついたものを求めるといい。ニコンやキヤノン、フジノン(フジフィルムね)がいろんな機種を出している。存外軽いものもある。

 倍率の高いものは魅力的に映るかもしれないが、拡大するぶん見える範囲が狭くなってしまうという致命的な問題がある。視野が狭いと、どこを見てるんだか分かんなる。野鳥・動物観察では致命的だ。また、いいレンズが使ってあれば倍率は低くても解像力がハイレベルなので、ひじょうによく見えるものだ。

 8倍というのがいちばん多く、それ以外はあまり選択肢がないのだが、軍隊用は6倍が普通だし、7倍は8倍とあまり変わらず、3倍や5倍という低倍率でも十分によく見える。本体は小さくなるし、視野は明るくなるし、低倍率にはいいこともたくさんあるのだ。

 いまほとんどのメーカーが8倍と10倍に集中しているのは、そのあたりがいちばんもうかるラインだからなのだろう。とくに欧州御三家はあまりにも低倍率側の選択肢が少なくてさみしい。高性能な5x20双眼鏡なんてのを出してくれたら日常・旅行用にすぐさま欲しいと思うが、どうなのだろうか。

 倍率の高い双眼鏡は暗くなってしまうのも問題だ。対物レンズ(前方の大きいほうのレンズね)の直径が倍率の数値の5倍あると余裕のある設計といえるそうだ。薄暗い時間帯や夜間でも肉眼よりずっと明るい視界が楽しめるはずだ。倍率が高いのに口径が小さい双眼鏡は朝夕の暗さに弱い。星なんか見てられないだろう。

 ズーム双眼鏡は要注意。ほんとうに高性能なレンズを使っていないと、めちゃくちゃな見え味になってしまう。設計に無理が生じるので、高級メーカーになるほどズーム双眼鏡は作っていない。欧州御三家では、スワロフスキーもツァイスも作っていず、Leicaがデュオビットを生産するのみ。それも10倍+15倍x50と、8倍+12倍x42というおとなしい倍率だ。カメラのレンズでもズームレンズは作るのが難しいが、双眼鏡でも同じことだ。

 何十倍、百何十倍なんていうスペックの双眼鏡を見かけるが、ぜったいにやめましょう。そういう商品を買い支えてはいけない。


 人間の目の感度というのはたいしたもので、ほんの少しだけ視野がゆがむだけでもはっきりと分かってしまう。ヘボな双眼鏡を覗いていると気分が悪くなってくるが、人間の目は敏感すぎるのだ。カメラのフィルムやCCDははごまかせても、人間の目はごまかせない。

 逆に、こういうレンズの違いが目で見てすぐに分かってしまうのが双眼鏡のおもしろさである。Leicaのカメラ用レンズなど20万円くらいはふつうにしてしまう。もっと高いレンズもふつうだ。なのに、ニコンと比べて写真にしても「うーん微妙に違うなあ」というくらいの違いしかない。

 双眼鏡は歴然だ。普及機しか知らない人が高級機を覗くと思わず「うわっ!」と声を上げてしまうはずだ。

 カメラはレンズ1コだが、双眼鏡ならレンズが2コもついて(個数の問題ではないが……)20万円もだせば当世最高の技術の粋を尽くしたモデルが手に入ってしまい、維持費も使わずに毎日楽しむことができるのだから、カメラよりはずっと安い趣味といえるだろう。

 日本人は双眼鏡よりカメラを、欧米人は日本人より双眼鏡を持つ率が高いそうだ。欧米人はゆっくりとバカンスに時間を費やすので、見て楽しむために双眼鏡を、時間のない日本人はひたすら記録しておこうとカメラを選ぶのだとか。

 そんなイヤーーな分析もある。




双眼鏡のおかげでバードウォッチングをはじめる 

 バードウォッチングになんとなく、ハマってきた。言うまでもなく双眼鏡のスワロフスキーSLC 7x42 Bのせいである。

 この重い、ほぼ1キロもある双眼鏡を、毎日仕事場に行くのにも首からかけて出かけるようになってしまった。バカである。

 昼食は急いで食べて、近くの加古川の河川敷に今日も鳥を見に行った。えらい寒さだったが、ありがたいことにバカなので感じない。

 河川敷の川っぷちは護岸になっている。護岸の端を鳥らを探してバイクをゆっくり流す。カモがいた。車から降りてさっそく観察開始。

 マガモとコガモ。というのはあとで自宅に帰って野鳥図鑑を調べたから分かったことだ。すぐそばにラッキーにもカワセミがいた。夏のように派手派手しい色ではない。くすんだ青色の羽根に、背筋を走る一条のコバルトブルーの羽毛が目にしみる。岸のヤナギの枝が強風で大揺れに揺れているのだが、その長い枝の一本に止まったままずっと激しく揺られ続けている。何をしているのかしばらくみていたが、揺られまくっているのに一向に気にせずずっと止まり続けていた。小川の流れ込みでチュウサギとアオサギを見る。シラサギのたぐいは何種類もいて見分けるのがめんどくさい。しかし川原に行けばいつでも姿が見られるので、わたしのような初心者にはもってこいの遊び相手である。

 野鳥ってのはいいなあ、ハズレがない。双眼鏡を持って出かければ、つまらない普通種かもしれないが、必ず見ることができる。見ればそれなりに発見はあるものだ。

 哺乳類はこうはいかない。カワウソなんか最悪だ。気温が氷点下になる3月の夜中に10時間ぶっつづけて朝まで川の中の岩でねばりとおし、けっきょく何も現れなかったときは、寒さと徒労感と絶望で死にたくなったものだ。

 こんなわけで、双眼鏡を買ったおかげでバードウォッチングに目覚めつつある。双眼鏡を持ち歩いていて、いちばん見ていておもしろいのはやっぱり鳥だ。追いかけるのもテクニックがいるし、動きがあるし、双眼鏡で拡大してみるとびっくりするくらい美しい。今日もマガモの青首が南からの陽光に照り映えて紫色に見えた。

 双眼鏡をあちこちで覗いていると、おもわぬところに鳥がいることが分かって驚く。

 カワウソ仲間の山田さんは哺乳動物を追ってきた経験が長いうえにもともと山屋なので、鳥を見つけるのがひじょうに速い。ようするに、視野が広いのである。カワウソの調査をしている、つまり水面を見ているはずのときに、頭上はるか上の樹木の上にいるフクロウを見つけたりする。わたしはこれまであまり鳥に興味を持ったことがなく、興味があるといえば魚と昆虫と両生・爬虫類くらい。であるから、陸上で長距離にピントを合わせる習慣がないのだ。地面や水中にたいしては過剰とも言えるくらい目配りをしているのだが、20─30メートルも先にいるようなものにはそもそもアンテナが立っていないのである。

 そんなわたしでも、双眼鏡で川原や林を見回していると、あれ、いたんだ、というような鳥が目に入ってくるのには驚く。きょうのカワセミもそうであったし、自宅の向かいの空き地をなわばりにしているモズもそうだ。モズが自宅のそばに来ているとは知らなかったのだが、先日自宅の窓からお向かいの柿の木をのぞいていたら、モズのメスがいるのを発見し、翌日も翌々日も姿が見える。連日来ていることが分かった。図鑑によると、冬の間は雌雄をとわずなわばりを作るらしい。なるほど、それで毎日いるんだ。先週はイヌの散歩に加古川の河川敷を歩いていて、何気なしに双眼鏡で広いヨシ原を見渡していたら、トビとはちょっと違うように見える猛禽がいた。低く飛び去ったが、チュウヒではなかったろうかと思う。

 新しい道具が新しい経験を生むのは当たり前とはいえ、自分の能力を伸ばしてくれる道具というのはいくら高価に見えても実はほんとうに安い。常人にはもちろんべらぼうに高いように思える14万円のこのスワロフスキー双眼鏡は、わたしにとってはひじょうに安い買い物だった。

 なにせ、この双眼鏡で覗いてみれば、日常のあらゆる風景が極上の鑑賞物に早変わりするのである。青空を流れる変哲のない雲も、見慣れた山の端にある木々の枝ぶりも、目の前の空き地の枯れススキも、数キロ先の加古川の駅前のビル群も、夕日を逆行にふわふわと輝いている蚊柱さえも、ため息が出るほど美しい。

 こんなものが14万円で買えてしまっていいのだろうか、とすら思う。もしかすると双眼鏡というのはものすごく安い買い物なのかもしれないとも思うが、一方で、もしかすると俺は完全に双眼鏡バカになってしまったのか、という不安もフトよぎる。

 とはいえ、双眼鏡の恩恵として、これまであまり知ろうともしなかった野鳥の世界が少し見えてきた。これまでは、鳥を遠くから見ているなんて、そんな間接的な趣味はヤダなあ、とすら思っていたのだ。なにせ川で魚を直接追い回して捕まえ、焼いて食うのがいちばんの喜びだったのだから。魚を釣ったら、キャッチ&イートしないと落ち着かない。 悪くいえば、バードウォッチングなんて、なんとおちょぼ口のバタ臭い趣味かと思っていたのである。

 変われば変わるものである。



光学的な高額的な1日 

 超高級双眼鏡を買ってしまった。スワロフスキーSLC7x42B。

 来年の5月まで、ゆっくりとeBayやヤフオクを見物して「物件」を探し、安く手に入れようと思っていたのだが、大阪梅田の協栄産業の大阪店に行ってしまったのが運の尽きであった。


 12月6日、奇しくもその日わたしは双眼鏡ではなく自分の目玉を新しくするため、つまりは近眼補正のレーシック手術のために大阪梅田に初回検査に行ったのであった。2時間ほどの検査の結果、手術を受けるのに問題はなしとの結果。1週間後に手術をするはずだった。

 それが、私の最後の質問で覆ってしまったのである。

 「動物観察が趣味でして、夜に高性能な双眼鏡を使って遠くを集中的に見ることがあるんです。問題はないですか。現在矯正視力が両眼1.5なので、かなり遠くのものでも不便なく見えるのですが」

 と尋ねたら、先生は

 「あ、そういう方にはレーシック手術はお薦めしません。」

 あっさりおっしゃった。レーシックは夜間には弱いそうで、夜間の視力は下がることがままあるというのである。シャープな視界が欲しいなら、ハードコンタクトレンズがお薦めですよ、と言う。海運業を営んでいる人や自衛隊員も手術に来るが、その点は説明をして了解を得てから手術をしているとのことだ。

 これは、あきらめるしかない。17年付き合ったメガネともいよいよおさらばかと思ったが……。私はコンタクトレンズが苦手なので、この調子では一生メガネということになりそうだ。

 瞳孔が開く目薬を投与されたため、ビルを出ると空や車のボディがめちゃくちゃにまぶしい。土偶のような目をして、気分はモグラ。歩いていて、思い出した。双眼鏡・望遠鏡の専門店・協栄産業が梅田にはある。ついでに行ってみよう。


 梅田の駅から北に300メートルくらいの店に赴く。

 じつは協栄産業には以前電話で高級双眼鏡について伺っていた。その時に応対してくださったワタナベさんがいらしたので、話は早い。

 目の前に現れたのは、Leica Ultravid 7x42BRZeiss Victory8x42FLSWAROVSKI SLC7x42の3機種。欧州御三家の6ケタ双眼鏡、燦然たる揃い踏みである。Zeissだけは7倍機がなかったので8倍。Leicaはひとつ前のモデルのBRである。これは光学性能はほとんど変わらないだろう。

 「倍率7倍以下、口径40mm前後の、持ち運びしやすく明るい広視界双眼鏡」

というのが私の欲しい双眼鏡である。バーダー(バードウォッチャー)のスタンダードである8倍より低倍率の7倍のほうがカワウソの調査には向いており、しかも8倍なら現有のUltravid 8x20がある。7倍のほうが双眼鏡としての設計に無理がないから明るく上質な見え味が望める。

 私の事前調査による予測は以下のとおり。

1位 シャープさと視界の広さのZeiss。
2位 最新型で軽量、デザインもいいLeica
3位 バーダーの定番だがいかんせん高価で重いSWAROVSKI

であった。Zeissは視界が広く、軽い。シャープさに定評がある。イギリスのバーダーはZeissを好むらしい。Leicaは自分がすでに1台持っていていろんないい思いをしただけに、信頼感がある(点が甘い)。Zeissに比して微妙に視界は狭いが、デザインもいいし、なにより御三家の中ではいちばん最後に新モデルであるUltravid HDシリーズを出しているから、最新の光学的成果を手に入れることができるわけだ。未知数だったのはSWAROVSKI。バーダーの定番とのことであったが、値段がめちゃくちゃに高いうえにぶっちぎりで重く、ほとんど視野に入っていなかった。

 とりあえず、LeicaとZeissを店の前でのぞかせてもらう。いやはや、すばらしくてため息が出る。甲乙つけがたい。ここまで来ると、双眼鏡に人間が試されている気がしてくる。

 ツァイスは8倍だったため7倍に比べると周辺像の歪みがやはり気になるのだが、これは不公平というものだ。ま、後日Zeissの7倍機を見てからの購入ということになるのかな、と思って、SWAROVSKIを見てみることにした。

 うう、ズッシリと重い。LeicaとZeissが750グラム程度なのに、950グラムもある。小さいのにとても重いというこの感覚は、Leica Mレンズのズミルックス50mmF1.4の「全きガラスの塊でごんす」というのに近い。いくらなんでも、重すぎる。

 どちらも7倍のLeicaとSWAROVSKIをいっしょに持ちだして、暗がりをのぞいてみた。そこで事件は起きたのである。

 うわ、なんだこりゃ。ぜんぜん違うぞ。

 SWAROVSKIが圧倒的にスゴイのである。店の対面にある駐車場についているトタン屋根の天井の隅のほうを見てみると、Leicaは明るいとはいえコントラストが明らかに落ちてボウっとかすみがかったような見え味になっているのだが、SWAROVSKIではどこまでもヌケがいい。そして、暗部のディテールがしっかり見えているのである。

 Leicaの完敗である。バードウォッチャーがSWAROVSKIを使う理由はこれだったのである。

 買うつもりで入店したわけではまったくなかったにもかかわらず、いきなり買うことにしてしまった。

 定価は18万9000円なのが、13万9800円のクリスマス特価になっているのも嬉しい。SWAROVSKIは年始1月に新モデルのEL SWAROVISIONを発売するうえ、クリスマスに重なって安くなっているのだ。わたしの探しているのが7倍というあまり人気のない倍率の双眼鏡であるのもよかったのかもしれない。

 Leicaよりもずっと安いうえに、見え味はずっといいのだから迷う意味がない。ずいぶん気にしていた重さなど、この見え味の差を知ると無視するしかない。

 買う気がまったくなく、買うならZeissかLeicaかと思っていたわたしにポンと14万円を出させたSWAROVSKIの実力については、後日ご報告を。




薪ストーブ 

 もう春だというのにストーブがやってきた。あこがれの薪ストーブである。

 薪ストーブ。

この甘美な響き。薪を室内で直接燃やすという、どこか先祖返り的な家の重鎮たる暖房器具である。ついにこれを手に入れた。

 かかった費用は7100円。71万円の間違いではなく。ただしくは7113円である。そういう薪ストーブがあるのですよ。その名も、時計型ストーブという。

 上から見ると振り子式壁掛け時計のような形をしているので、その名がついた。ブリキもしくはステンレスでできていて、薪ストーブとしては破格の値段で手に入るのだ。よく知られたホンマ製作所のWebサイトを見れば信じてもらえるでしょう。ブリキより耐久性のあるAS60というステンレス機を処分価格で売っているサイトから7100円(送料込み)で買った。

 本体より煙突+煙突工事費の方がずっと高いのであるが、部屋にもともとあった換気扇の取り付け穴を流用したので壁をぶち抜く必要もなかった。というようなわけで、本体・工事費すべて含めて5万円くらいで薪ストーブ生活が始められたのだ。

 こまかい紙ゴミなんかこれでいっさいおさらばである。タバコの吸い殻なんかもどんどん放り込んで燃料にしてしまえばいい。今夜は暖かいのでそれも燃やさずにすんでいる。薪を多めに放り込むととんでもない熱量を発して部屋の温度を一気に25度くらいまで持っていく能力がある。本体が薄い鉄板なので真っ赤になるのが恐ろしくもあるが、先日まで電気ストーブ1台と湯たんぽしかなく室温5度に震えていたのが一気に快適になった。

 薪ストーブのネックは燃料の確保だけれど、これはイヌの散歩を兼ねて近所の日岡山まで歩き、倒木のあまり腐っていないのを持って帰ったり、建築廃材を調達してきたりして当座を確保している。ほんとうは次の冬のための燃料を調達すべき時期なんだけれど、まあとりあえずである。

 今のご時世倒木なんかわざわざ喜んで持って帰る人はいないから、競争率はゼロに近い。薪の調達が難しいから薪ストーブの導入を悩んでいる方、ちょっとした山なんか身の回りにないですか?ほんとうにないですか?神社や寺のそばにはありませんか。林床がきれいになれば神社やお寺も喜ぶはずですよ。

 あとは川原。ここは流木の宝庫。台風や大雨の後はチェック。ひんぱんに川を見ていれば、どの場所に流木が集まりやすいか分かるようになる。川のカーブしたところや流れのよどんでいるところが狙い目。ここを出水の後に狙い撃ちすると、労せずして大量の木材が手に入る。

 流木の質を見ればどんな木が上流に生えているか分かったりします。四万十川では大洪水を橋から見下ろしていると、家が何軒も立つような量の丸太がほんの短時間でずんどこずんどこ流れ去っていくのがたいへんな壮観でしたが、加古川本流はあまり針葉樹が流れてこないですね。でも針葉樹じゃないほうがいいです、薪ストーブの燃料は。針葉樹は勢いよく燃えますが、ほんとうに火もちが悪い。広葉樹を重点的に集めるようにしましょう。

 大量の樹木を切るところとしては街路樹を伐採する現場などがあります。自治体に問い合わせれば分かるでしょう。どっちみち廃棄されているでしょうから、理由をいえば快くわけてくれるのではないでしょうか(イチョウの木は要注意。絶望的に燃えません)。

 調達で案外問題になるのは運搬方法。軽トラがあればいちばんいいのですが、本当は。先日車を購入する話を書きましたが、まだないので誰かリヤカーを譲ってくれる人はいないか探しているしだい。これだとバイクの後ろにくくり付けて大量のものを運搬できる。そういう使い方も見越しておっさんバイクのホンダCD「ベンリィ」125ccを所有しているのである。リヤカーって新品で買うととても高いんですよ。6─7万円もします。オンボロの軽トラなら10万円くらいであるのに……。

 とまれ、近ごろは山の木なんかを燃料として使う人はいないので、木材の調達というのはちょっと工夫すればラクなのではないかと思う。韓国などに行くと集落近くの林は燃料になりそうなものがいっさいないといっていいほどしっかり利用されている。かの地ではオンドルがあるからね。燃料としての薪炭や柴(死語に近いですねこれ)にまだまだ需要があって林がしっかり使われ、おかげで里山は日本よりずっと里山らしい風景をたもっている。

 これに比べれば「薪集めがたいへんで……」というのは、工夫しだいといったところだと思う。あとは人脈ですね。軽トラを貸してくれたり、廃材の出そうなところを教えてくれたり。そういう人脈。こんな時に田舎住まいの魅力が出てきます。

 さて来冬に備えて大量の薪をどう確保するか、急がないとこれから初夏にかけて樹木が大量の水分を含む季節に入ってしまう。忙しい忙しい。



ジッポライター 

 くまがいさんがいきなりテンピュールのアイマスクを買ったみたいですね。光が気になって眠れない人にはほんとうにおすすめですよ。漫画家など生活が不規則な人にはとくに(笑)。昼寝にも最適です。オフィス仕事をしている人も、昼休みに20分くらい眠るといきなりラクになるはずです。そんなときにもアイマスクは役に立ちます。あとは飛行機の機内でも。

 私はまつげが長いので、アイマスクをして寝ると目が銭形警部みたいになります。どうでもいいけど。

 ひさびさに道具について。ジッポライターを新しく買いました。

 スモーカーであってアウトドアズ・マンであって、たき火がほぼ人生の一部であって伴侶あるから、しぜん点火具が好きだ。高級ライター以外はいろいろ試したが、けっきょく落ち着くのはジッポライターだった。

 ジッポはもう言うまでもないけれど、戦場でその性能が認められてきただけあっていつでも、どこでも、即座に火が点く。点いたら消えない。とにかく風に強い。若い時から使ってきたのでライターとはこういうものだと思ってきたが、ほかのライターを使ってみたら風に弱くて閉口し、結局いつもジッポに戻ってくる。アウトドア無敵のライターといえば、いまでもジッポにとどめを刺すのである。

 100円ライターは便利だがとにかく風に弱すぎる。いくら手で覆っても少し強い風があるとなかなか点火しない。ジャケットの襟を立てて懐で点けてみたりしゃがみ込んで風に背を向けてみたりしても、なかなか。ジッポならびっくりするような強風の中でも火がついたまま消えないのに、と思いながらとにかくシュボシュボしつづけるしかない。

 ジッポの利点は火を付けたまま立てておける点にもある。テント内での簡易照明やちょっとした加工用のコンロとしても使える。テントの中で物を探すのに使ったり、ナイロンロープの端をあぶって溶かし、ほつれ止めをしたりする。水の中に落としてもフタがあるのでビショ濡れにはならず、乾きやすい。

 専用のオイルを使わなくても自動車のガソリンでも燃料に使えるのは案外知らない人も多い。けっこうなススが出て臭いがきついが、こういう非常時に強いのは辺境やアラスカなど原野や人があまりいず、使えるものはなんでも使わないといけないところ行ったりするとだいじです。

 とはいえジッポにも欠点がいくつかある。1つに、オイルをよく食うこと。2つに、重いことである。

 オイルといってもガソリンに近い粘度が低いもので、スモーカーの私だとだいたい1─2週間に1回はオイルを入れる必要がある。このためちょっと長旅になるとライターとともにオイル缶を携行する。ちかごろはコンビニエンスストアでもどこの店も売るようになったのでひじょうに便利になった。

 このオイルはけっこうな勢いで蒸発してしまう。南紀の炭焼き人・土山徹君も一時炭窯に点火するのにこのライターを使っていたが、ノン・スモーカーの彼の場合10日に1回窯に点火するときしか使用しない。1年に36回。すると補充した燃料が次回の点火時にはもうほとんど雲散霧消しているというわけで、しぜんと使わなくなったらしい。ジッポはひんぱんにライターを使う、やはりスモーカーのための道具なのである。

 ジッポは頑丈に作ってあるだけあってポケットに入れていると重いものだ。たんに重いだけならまだしも、重量の必然的既決として、万有引力の法則に従いやすい。つまり引力によって地球と愛し合う傾向がある。分かりやすく言うとよく落っことす。

 ジッポは金属的存在感、機械的な感触が男好きのするモチーフである。金属面を利用していろんな意匠・デザインをこらしたものが発売されているのでコレクションするのも楽しいものだ。お気に入りは身に付けていたいのだが、持って歩いているとテキメンに紛失の憂き目にあうことになる。

 フィリピン時代がひどかった。これぞ!と思ったジッポをひと月に2、3個なくしたことがあって、ショックのあまりライターへの思い入れをこれを機に捨てた。記者生活はタクシーに乗る機会が多く、重さのあるこのライターは車の座席に深く腰かけているとすぐにポケットから滑り落ちるのである。

 以来いつでも買い替えがきくように、それでもちょっとは気の利いたものとして、総真鍮製(よく出回っているメッキのものと総真鍮製のものとがある。総真鍮製だと管楽器と同じで「ピン」とふたを開ける時に音がいい……ような気がする)のスタンダードなものを選ぶようにして、大事にするのをやめた。ポケットの中でカギ束も小銭もいっしょにしてある。傷がついても知らん顔である。いつでも出て行け、というくらいの使い方をすることにした。

 ──すると、うまくいかないもので、以来まったく失うことがなくなり、今の「伴侶」はすでに5年くらい一緒である。こうなると「いつでも出て行ていっていい」と告げていた居候とはからずも5年付き合っていることになり、困ったことにまたふたたび情が移ってきた。こんなはずじゃなかった。というわけで新しいのを買い足すことにしたわけである。同じ総真鍮製で「SOLID BRASS」の刻印のないものがあるようなので、ネットで注文する。買うものが決まっていれば、ネットでものを買えるのは本当に便利になりました。昔ならあちこちの店を回るしか方法がなかったのにね。

 ご存知かどうか、ジッポは永年保証がついていて、壊れたらいつでもタダで直してくれるというのが太っ腹である。勝手に送り付ければ直って返ってくるのである。車に踏んづけられても修理(というか、交換)してくれる。

 実際には製造したライターの相当数が寿命をまっとうすることなく紛失され、都会や田舎のもくずになっているからこそ、こんなサービスができるんだろう。開高健のエッセイを読むと、ジッポはなくした人はたくさんいるが、拾った人の話はほとんど聞かないと書いている。私もやっぱりジッポにかんしては明らかに「出超」である。

 とにかく、ふつうに使っている分には、フリント(火打石)とウイック(芯)をごくたまに交換していればまず壊れることがない。ヘビーユーザーにはジッポ以上のものは現在ないだろうと思う。

 ジッポのことばかり書いてきたが、かたやマッチというのも便利なものだ。とにかく軽くて持ち運びに気にならず、煙草に点火した時の香りが煙草の味を増幅してくれる。振り消したときにマッチから立ち上る煙も美しい。

 しかも風に強い、マッチは。アウトドアでは100円ライターよりよっぽど優秀だ。すぐに消えてしまうとはいえ、薬のついている部分は風にも容易には消えないから、煙草やコンロへの点火は申し分ない。欠点は水に弱いくらいなのだからマッチというのはもっと使われてもいいのに、なぜか実力以下の扱いしか受けていない。荒物屋やホームセンターで10箱まとめ買いするか、大箱を買っても申しわけないくらいの安値である。これを家のあちこちにバラまいておくと便利である。

 プラスチックの100円ライターがいちばん使いツブシがきかず、また「持ち心地」もよくないということだ。火打石も使い切らずに捨てるしかないし、本体もかならずゴミになる。アウトドアでは火がキャンプの求心力だから、点火のような大事な儀式に100円ライターを使うのは気分的にもすぐれない。

 子どものころ、100円ライターをコンクリートの壁に投げつけて爆発させて遊んだ思い出がある。

 昨年前述の土山君のところに行った折り、縄文式火起こしを初めて体験させてもらった。木製の竿にピンと張ったヒモを回転ギリに巻き付けてひたすら板の上で回転させるという方式だったのだが、失敗の連続で、大人が2人がかりで大汗をかいて20─30分かかった。点火道具なしで火を点けるというののあまりの大変さに驚愕した。そりゃあ地上で局地的に温度を800度以上にあげなければならないんだから。縄文人は偉いなあ。いや、こんな面倒なことほんとに毎回やってたのか──などと炭窯の前でカンカンガクガク話す。たぶん火付け達人みたいのが出て、大いに尊敬を受けたりしたことだろう。

 火は求心力なんだから、ちょっとはいいものを使いたいもんです。 キャンプでもタバコでも色気がないと。






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