「何かおもしろい本はないですか」とミーティングで神戸店長に聞かれたので、即座に『エンデュアランス号漂流』(アルフレッド ランシング著、新潮文庫)と答える。
動物マンガ家のくまがいさんも最近読んだそうだ──ということは、さてはガラパゴスの次は南極を狙ってますね。
帰宅すると、たまたま目についたのでアマゾンで買っておいた斉藤実の『孤闘』(角川書店)が届いていたので、ひさしぶりに冒険物を一気読み。 個人的には、単独地球1周の「アラウンド・アローン」レースに出場したあと、ゴールのアメリカ東海岸から日本までとくにこだわりもなくまたヨットに乗って地球を東回りで日本に帰るのがすごいと思った。
ヨットというのは風だけを使って進む頼りない船だというのが一般的な印象だが、実は外洋航海用ヨットは1万トン級の船と同じくらい波に強い。それでも横転するのは当たり前、前転することすらあるのが外洋ヨット航海の世界である。著者も横転は数え切れないほど経験し、完全に転覆(つまり海の中で逆立ち)もしている。(ちなみにヨットは横転・転覆しても復元するので沈没はしない)
外洋航海・漂流ものの特徴は、とにかく登場人物が少ない(海の上だからね)のでどんどん読めてしまうということである。読みどころは、地上に生きる人間には信じられないほど凶悪な暴風波浪、寒さが襲う中で冒険家が一体なにを考えたか、ということにつきる。(ヘイエルダールのコンティキ号はちょっと毛色が違ってバルサ材のイカダの旅は魚も捕れてとっても安楽、古代人でも楽勝だよねという内容)
ヨットで世界一周をしても今さらパイオニアワークではなく社会性も少ないのだが、やっぱり命をかけて地球を同じヨットで6周もしてしまう人の生き方、考え方というのはすがすがしい。すらすら読めて、深い読後感を残すというのが漂流ものの特徴かもしれない。
命を賭けたシンプルな行動が陸の社会のおかしさを浮き彫りにするのもまた読みどころだ。
堀江謙一は世界初の大平洋単独横断に成功したとき、日本の出入国管理局に届け出を出さず、闇に紛れて西宮のヨットハーバーを出航し、まるでドロボウのように紀淡海峡を抜けて日本の領海を「脱出」している。正式な許可が出ようはずがなかったからだ。そして、世界初の快挙を成功させた若者に対して、日本政府は「出入国管理法違反」で応じようとした。
ところが、サンフランシスコ市がこの人類史的快挙にたいして堀江青年をいちはやく名誉市民にしてしまったので、後から見解を撤回するという醜態を演じている。
『孤闘』も海から陸を見る視点が新鮮だった。アラウンド・アローンのレース中にマストが折れて遭難した女性セーラーのイザベル・オティシエをオーストラリア海軍が150万ドルの費用をかけて救出したのだが、その費用は国が負担すべきなのかどうかマスコミで問題になったそうだ。この問題は結局オーストラリアの防衛大臣が
「我々は、こういうときのために国民から給料をもらっているのだ。今回の救難活動は困難を極めたが、めったにできない、とても良い訓練にもなった。そして、なにより尊い人命を救えたことを誇りに思っている」
と語ったことで収束したという。かたや1991年に開かれたジャパン─グアムヨットレースでは、遭難者が多数出たことを訴えられた主催者の旧日本外洋帆走協会が多額の負債を負ったそうだ。
助け合わなくては生きて行けないというのが海の常識であり、先進国以外なら地上の世界でも常識なのだが、大平楽の日本では通用しない。何であれ制御可能だと思ってしまう日本の行き着いた先が、イラクで拉致された同胞に向けられた「自己責任」という言葉だったのではないか。