薪割り台はクスノキを絶賛推薦します

ストーブに使う薪は何の木でもいいんですか?というのはたいへんよく聞かれる質問です。いや、分かっている。みんなほんとうは
「いやあ、やっぱりコナラやクヌギがいちばんです」
と言ってほしいのだ。
「火持ちがいいし里山の代表樹ですからねえ」
とかありきたりな蘊蓄(うんちく)のひとつも付け加えてやれば満足して「やっぱり!そうですよねぇ」と腑に落ちた顔をできるのだ。
そう言ってほしいのは分かってんです。
火持ちがいいし、香りがいいし、樹皮の質感が「いかにも薪」という感じだし、シイタケを植えることもできるし、カブトムシやクワガタが育つ。たしかにコナラやクヌギは万能選手的にいい木だと思いますよ。さすが日本人が長年選択してきただけのことはある。
しかしアマノジャクなわたしはあえてそうは言わない。
「薪なんかなんでもいいんですよ」
「なんでも燃えます」
「わたしは川原の流木から始めました」
「スギやマツのほうが温度上昇が速くて好き」
「コナラやクヌギなんて重くてカミサンが運ばれへん」
と愛妻家にすら化けてこれらの木をくさす。いやいや嫌いじゃないんですよ。21世紀になって、なんでもかんでもコナラやクヌギや里山でもないでしょうに、と思うわけです。
じっさい、現代日本人は一日中薪ストーブを焚く人はほとんどいないわけです。終日家で薪ストーブ焚いてるなんてどんな富裕階級やねん。理想と現実をわけていただきたい。起きたら25分で出勤、残業から帰ってきたらメシフロネルなくせに。
つまい焚くのはたいてい朝と夜なわけです。そうすると、やたら火持ちがよくても困る。パッとつけてカーッと温度が上がって、サッと消える。そういう燃え方をしてくれるほうが生活に合ってる。するとスギとかマツのほうがずっといい。
もちろん自宅が仕事場だったりすれば火持ちは重要かもしれません。でも根本的に知っておくべきは「ナラやクヌギがいちばん」ではなく「樹種は使いよう。適材適所」です。
スギはとくに手に入れやすいし、すばらしい特徴として乾燥が圧倒的に速い。昨夏奈良県の東吉野村で真夏の7月に薪割りワークショップをやったのですが、そのときに作った薪は秋の入口からもう焚き物にしたけれど何も問題なかったそうです。それくらい乾燥が早い。スギの薪としての性能なんてあまり注目されませんが、3カ月で使えるというのは特筆すべき性質ですよ。
そんなわけで薪の樹種にはとくだんの思い入れはなく、手に入る木の中で使えるものをうまく使う方針ですが、あまり注目されない薪割り台には明らかに向いている木があります。
そう、みんな大嫌いなクスノキですね。

【写真説明】クスノキは成長が速いので柵などの人工物を飲み込んじゃうことがよくある。
まあほんとうに割れにくい。繊維が錯綜している(※)ので斧ではなかなかやっつけられないんですよ。成長が早いので、住宅街の周辺で手に入る丸太にもやたらでっかいのが多いうえ、水分が多いから運ぶのがたいへんな労力。そのくせ乾燥させたらスッカスカになる。すなわち火持ちが悪い。
また、トラックならいいのですが、ワンボックスカーで切ったばかりの新鮮な丸太を運搬すると臭いがキツくて目が開けられないくらいになります。
ですが割り台にするとかなり利点が多いのですよ。
まず、割れないというのが薪としては最悪ですが、薪割り台にするなら大きな利点に変わります。薪を割っていると古い割り台がいっしょに割れちゃうことがあるんですが、すると斧が足元まで来たりして危ない。ところが、クスノキはそもそも組織が割れにくいうえ、防虫剤として使われる樟脳を採取するくらいですからなかなか腐ってこない。
割り台はあるていど大きくないと使いにくいのですが、クスノキはデカいのが多いのでこの点も優秀です。
小学校の校庭にばかでかい木が生えているのは、兵庫県だとだいたいクスノキですね。県樹だし。学校は子どもの健康のためにも木立や緑蔭をほしがるので、成長が早い木を植える。その点クスノキは数十年でとんでもない大木になります。加古川市だと神野小学校とか日岡小学校とかに巨大な木がありますね。神野小学校は立派な木がたくさんあったけど切っちゃったみたいでもったいない。
ちなみに、約30年前にわたしが卒業した同市の陵北小学校は新設の小学校でした。早く木を育てたかったのでしょう、成長がめちゃくちゃ早いことで知られるユーカリをたくさん植えてました。これも今は御役御免になって切っちゃってます。

【写真説明】薪割り台各種。こちらはカシ。ひたすら重いので動かすのがイヤになる。固いので手首にくる。

【写真説明】センダン。成長が速いので大きな丸太がわりに手に入りやすく軽い。

【写真説明】アベマキ(クヌギ)。ナラやクヌギはおいしい木なのですぐ虫や菌類のエサになって腐る。
虫害や大気汚染、塩分にも強い。そんなことから住宅地や公園、街路樹、社寺林にもたくさん植えられていますから特大の丸太がけっこう街中でも手に入りやすい。
寒冷地や内陸部には育ちにくいので手に入りませんが、大きくて乾燥すれば軽く、割れず腐らず長持ち。まさに割り台になるために生まれてきたような木なのです。
そんなわけで、日本の関東以西の沿岸部に住んでる人は、割り台はぜひクスノキをご用命ください。
(※)意外にあっさり割れるものもあるので調べてみた。「生育条件により材質の変化が著しく、交差木理や玉杢が現れる場合がある」(『日本樹木誌1』、日本樹木誌編集委員会編、日本林業調査会)。やはりすべてが割れないものではないようだが、経験的にこの木は乾燥させると繊維が噛みついてさらに割れにくくなるように思う。