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四万十川の円が閉じた日 

 わたしの川旅はいい場所を見つけたらかなり長逗留する。

 四万十川を下っていたとき、十川という集落のはずれに1週間くらいテントを張りっぱなしで滞在したことがあった。

 初夏の早朝、茶の産地としても有名になったこの村(元・十和村、現・四万十町)には、四万十川の広い谷間を埋めるような盛大な川霧がたつ。この川面にカヌーを浮かべて水上散歩するのが日課になった。

 ある朝、一面ミルクのような川霧の中から「ゴン、ゴン」と川舟を操作する竿の音がしてくるので近づいていったら、ウナギの仕掛けを引き上げている川漁師だった。ウナギの仕掛けの作り方を教わり早速ためしてみることにした。

 ウナギ釣りのエサには川魚のブツ切りを使う。川魚を釣るため、まずは昼間の川に入り、浅瀬で石をひっくり返して石の裏に張り付いている川虫を捕った。

 夕方、延べ竿を出してきて瀬で川虫をエサにカワムツを釣る。10匹も釣ったところで引き上げてブツ切り。前もって作って置いた仕掛けに付ける。1本の幹糸に何本ものエダスがついたハエナワだ。ウナギはハリがかりすると身をよじってすさまじい力で暴れるので、仕掛けは太い糸で作る。ハリは地元でアジバリという一般的なものを使う。なぜアジバリというのか名前の由来は地元の人も知らない。

 地元の魚屋でもらった発泡スチロールを目印のウキにする。オモリには石を使うが、これを糸に固定するにはこれも地元の自転車屋でもらった自転車のチューブを切ったものを使う。ぜんぶ地元調達である。

 こうして5本の仕掛けを川のここぞと思う淵に放り込んでおき、翌朝また早暁に出かけていって回収するのだ。

 翌朝の作業は視界がほとんど効かない白い霧の中でカヌーを漕いで目印の発泡を探し、流れを読んで操船しながらやる。カヌーは船内のスペースも狭いので忙しい。

 1本目、ハズレ。2本目、ハズレ。さすがにそうはうまくいかないか──と思いながら最後の1本を引き上げようとしたら、グイグイと強烈な引きが来た。興奮しながら上げると、大きなナマズがかかっていた。

 さっそくさばいて蒲焼きにした。手元に在るものでタレを作り、小さな焚き火を起こして塗りながら焼いた。子どものころから祖父にナマズは食わせてもらったことがあった。その川の魚を食べると「全力でその川を味わった」という気にさせてくれる。

 食べ終わると陽も高い。腹もふくれたのでヒルネをする。

 テントが大風でバサリ、バサリと大きく揺さぶられる。

 バサリ。バサッ。

 いかにもみょうなので起き上がってみたら、テントのすぐ横に転がして置いたナマズの頭をトビが狙って滑降してはテントが邪魔になって失敗し、なんども空中を踊っているのだった。

 わたしに気づいたトビは近くの電線にこっちを向いてとまっている。「おい、ここに置くぞ」ひょいと放ってやるが早いか、ふわりと鮮やかな弧を描いて空中に舞い上がり、ふたたび一陣の風を残して頭を拾いさっていった。

 川虫とカワムツとナマズとトビの連鎖を自分が作った気になり、トビを見送りつつ円がみごとに閉じたような気がした。

 まだ何者でもない若者だったころの5月の話である。





[2016/10/01 00:20] よもやまコメント | トラックバック(-) | コメント(-)



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