カワウソ調査大成功 

 現地たった2日間のカワウソ調査は大成功。これまでにないほどの鮮明な生態映像が撮影できたのである。

 今回はこれまでで最強のハンドライトを導入したのだが、このライトの破壊力たるやすさまじく、手持ちなのに高級外車のヘッドライトの何倍もの強さで発光する。持続時間は1時間半ある。

 これまで米軍がライフルの銃身に付けて夜の野戦で使うというSureFireのライトや、大型の懐中電灯などさまざまな照明器具を模索してきたが、まるで真昼と見まごうような明るさが手に入るようになったのである。製造元の日本探索光研(http://www.search-light.jp/)には満腔の敬意と謝意を表したい。本来は災害救助現場でのサーチライトとか、そういう現場系の照明として使われるもののようだ。

 カワウソの調査ってどういうことをやるのかよくごぞんじないであろう。日本にいないんだから当たり前なので、簡単にご説明申し上げる。

 目的はカワウソの生態を明らかにすることである。ニホンカワウソで調査ができない以上、いちばん近い場所に棲み分類的にも亜種以下の差しかない韓国のユーラシアカワウソを調査するのがもっともいい。韓国にはまだ生息地がたくさんあり、現在は保護政策もあいまって生息頭数が増加傾向にある。あるメジャーな川の、ダム湖に流れ込む支流で調査を繰り返してきた。

 カワウソはほかのほとんどの哺乳動物と同じく夜行性である。昼間の調査では前夜のカワウソの行動を「痕跡」によって推理する。痕跡というのはつまり足跡とフンだ。

 足跡の大きさからカワウソのサイズ、歩いた方向、連れがいたか、など行動している個体について情報を蒐集する。またフンからはどこで何を食べたか、フンの鮮度を見てどの時刻にその場所でフンをしたか、などさまざまな情報を得る。フンはどうやらイヌの小便と同じく他の個体に対するサインの役割も果たしているようなので、どういう意味があるかも考える。フンといっしょに「オッターマウンド」という小さな砂山を作ることも多い。これはなぜ作るのかよく分からないのだが。

 数人で川の一定区間を分担して痕跡情報を集め、その分布を見て現在(つまり調査をしている昼間)カワウソがどのあたりで休息しているかを推定。この推定に基づいて、夜の目視観察に入る。

 夜の目視観察は直接カワウソを観察して、さらに具体的な行動情報を得る。撮影をしたり、その夜の何時にどこに現れたかなどの情報を得るのがこの夜間観察の役割だ。しかしこれが苦行である。出てくるか出てこないか分からないカワウソを、橋の上などでカメラを構えて身じろぎもせずに待ち続けなければならない。韓国の山中は日本の飛騨地方くらいの寒さになり、川が凍ることもある。いくらダウンジャケットを着込んでも体温はどんどん奪われていく。

 夜間観察の難しいのは、ライトで追いまわす観察になるため、カワウソの行動に人間が影響を及ぼしてしまう点だ。しかし、撮影のためにはライティングは不可欠である。

 今回の調査では1日目に狭い区間に痕跡が集中していたため、すぐにカワウソの行動区間が特定できた。4人のメンバーが二手に分かれ、いちばん可能性の高い区間を上流と下流で挟み撃ちするように待ち受けたのである。案の定、日が暮れてまもない7時20分ごろ、一頭のカワウソが上流から下流に向かって下りてきた。発見したら携帯電話で連絡を取り合って、自動車で1カ所に移動する。撮影をしながらカワウソの追跡を開始する。

 いくらライトが明るいといっても、数百メートル先のカワウソは闇の中でポツリと目が光るだけである。真っ暗な川を双眼鏡でのぞき込み、スウと流れる光を見つけるのがまず第一の仕事。今回投入したライカの双眼鏡は小口径ながらヌケがとてもよく、威力を発揮。いちはやくカワウソを発見してメンバーをうらやましがらせた。

 現れたカワウソはひじょうな自信家で、橋の上から強烈なライト数発で照らしていてもほとんど気にせずに橋の下を通過した。双眼鏡で見ていると、眼下の水中を泳ぎ去るカワウソの毛が水にたなびいているのまで見えるのである。まるで水族館みたいであった。まだカワウソを目視したことのなかったメンバー(わたしよりカワウソ歴は長いんだけど)は興奮しきり。わたしもこれほどくっきりと観察したことはなかったので感動であった。

 超強力ライトと図太いカワウソの登場、そしてなによりこれまで20年間にわたる調査の積み重ねにより、長時間にわたって生態を撮影することができたのであった。超短期間の弾丸調査行でこれほどの撮影をすることができたのはほんとうに幸運だった。

 哺乳動物の観察というのは、日本ではあまりはやらない趣味だけれど、動物や植物を切り口に世の中を理解する向きにはぜひおすすめしたい。なかでもカワウソはじつにおもしろい。なぜかって、観察が比較的簡単だからだ(韓国に行けばね)。

 カワウソは基本的に水辺しか移動しないので、川沿いに歩いていればさまざまな情報が得られる。なかでもフンを見つけることなどはひじょうに簡単である。仲間へのサインの意味があるからか、川のなかでもいちばん目立つ場所、たとえば馬の背のように盛り上がった石の上だとか、気持ちのよさそうな砂地だとか、そういう場所に選んでフンを残すのだ。

 水辺だから足跡も見つけやすい。山を歩いている動物はたまたま柔らかい場所を歩いてくれないかぎり足跡は残らないが、カワウソの場合砂や泥に上陸すればすべての足跡がなんらかの形で残る。しかもお気に入りの場所は繰り返し使ってくれる。たとえぼんやりとした足跡ではあってもサイズから大人・子どもの区別はつく。前日に調査者が付けた足跡の上をカワウソが歩いていたこともこれまでなんどかあった。そういう頻度で見つかるのである。

 毎日新しい発見があるのがカワウソ調査のおもしろさ。目が慣れてくるとますます痕跡が見つかるようになり、カワウソに肉薄しているのが感じられる。いちばん難しいのが巣穴とか、寝屋を見つけることで、これはまだ果たせていないのだが、これが見つかるとさらにカワウソの生態がはっきりしてくるとおもう。

 また野望に一歩近づいた。



[2008/03/30 01:43] フィールドニュース | TB(0) | CM(0)

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