当落線上の人々3 乱戦別府から3期目なるか よしの晴雄候補 

 兵庫県加古川市は瀬戸内海に面した町であるが、海は実質的にはない。巨大な埋め立て地がもとの海岸線の沖合を完全に覆ってしてしまっているからだ。沖合から見える加古川市は、灰色の工場群と煙や蒸気を吐くエントツである。

 1996年に瀬戸内海をカヌーで旅したときは、姫路市の海水浴場(これも水が汚くて閉口した)から漕ぎ出して、海岸沿いを行かずにまず南下して家島に向かった。兵庫県南部の工場地帯を避けるためだ。工場地帯はコンクリートの岸壁とテトラポッドしかなく、カヌーはまったく上陸できない。

 川には慣れていたが単調な反復を繰り返す海の波には慣れていず、瀬戸内海のど真ん中で船酔いになって死ぬ思いをしたのはこのときである。


 海岸を埋めた後の巨大人口島にできたのが、神戸製鋼所の巨大工場群だ。

 今回の選挙で候補が乱立して「主戦場」になりそうな別府町(べふちょう)は、埋め立てられる前の加古川市の海岸線の東部分を占め、播磨町と隣接している。西隣の尾上町(おのえちょう)とならび煤煙・粉塵被害の中心地でもある。6月24日にもふたたび煤煙が基準を超過して住民の怒りに火を注いだうえ、今月5日には製鉄所内で鉄板が落下して21歳の男性下請け作業員が死亡した。

 6日夜に別府町本町の町民会館で演説会を開いた現職の吉野晴雄候補(58)は「市の環境部も悪いが、それだけではない。市長がもっと真剣にやる態度を示せばできるはずなんや」と市長のあいまいな態度も指摘する。「環境部ができることがもっとある」。

 町内をはしる道路の歩道ぎわには、キラキラと光る砂が必ずある。神戸製鋼所から強風で飛んできた鉄鉱石のかけらだという。「これは確実だ」と念を押した。

 神戸製鋼の排煙データ改ざん問題は粉塵被害へと飛び火し、どちらかというと町民の怒りの対象は目に見えやすい粉塵被害になっている。しかし排煙による健康被害についても、実際に吉野候補は経験があるという。
「生まれた子どもがぜんそくになったせいで、離婚した夫婦を知っている。奥さんは徳之島かどこかの出身で、そちらに引っ越したら子どものぜんそくはすぐ治った」


 吉野候補は今回当選すれば3期目に突入する。しかし前回2002年の市会議員選挙では、33人中32位の得票数、まさに薄氷の勝利だった。盤石の地盤を築いているとは言い難い。

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(写真説明:妻の遺影の元で支援者の応援演説を聞く吉野候補)

 しかも今回の選挙ではもうひとつおおきなハンデを追っている。妻を昨年亡くしたのである。周囲の人も高く評価していた広い人脈を持っていたが、その妻の力添えは今回ない。

 しかも地盤は今回立候補者が乱立ぎみの別府町周辺だ。「別府町内の票数は7500票。そこに4人が立ち、取り巻く地域を含めると合計10人が立候補しています」と松本後援会長が強調する。

 応援弁士として登壇した井上ひでゆき兵庫県議会議員が訴えたのは、決して楽ではない選挙の実態だ。
「この選挙では、現職は楽勝という声が聞かれます。他候補から吉野候補に票を譲ってくれという声もある。そういう思い込みに票が削られるのが怖い」
と支援者に安易な鞍替えをしないよう伝えた。

 吉野候補はこれまでに選挙活動として数十社の企業を回った。今回の選挙ではとくに十数件企業回りを増やしている。6日もイトーヨーカドーの社員食堂で演説をし、7日は加古川の有力企業である多木化学の社員食堂へと向かう。

 市議会で党幹事長を務めた実績をもとに支持を訴える。「三位一体の改革」により市の福祉予算の負担が重くなったが、これはやらざるを得ないとの見解だ。「安心・安全の町」が吉野議員のスローガンである。

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