古座川へ(3) 

 清浄な朝の空気の中でフネを組み立てる。寝不足なのが玉に瑕(きず)だが、ひりひりと肌に凍みる山峡の空気が心地いい。目覚めの音は鳴き交わすウグイスだ。

 5月の日曜日、絶好のキャンプ地だというのに川原にはキャンプする姿はない、キャンプ場は混んでいるのに、川原はいつも空いているのが日本の川だ。

 半径数メートルに必ず人がいる生活からいきなり数キロ四方に誰もいない生活に移行できるのがカヌーツーリングのいいところだ。これがアラスカや南米の川になると、数十キロから数百キロというオーダーにまで広がる。次の村までも数百キロ。数日漕いでも次の村に着かないぜいたくさ。

 とひとり、まだ日が差し込まない川原の朝を楽しんでいたら、6時になってカヌーを担いだ男性が川原に1人で降りてきた。宝塚からきたそうだ。

 「野田知佑さんにいちど息子を会わせたくて来たんです。あれ、知らなくて来たんですか?」

なんと、下流ではカヌーイストの野田知佑さんが参加する200人の大カヌー部隊が古座川の清掃ツーリングのスタートを待ちかまえているという。まったく知らなかった。これは早く出発しないと巻き込まれるとえらいことになる。男性は息子をカヌーイベントに連れてきて、自分は早起きして数キロ上流からスタートするのだという。あっというまに出発していった。

 こちらも荷を解き、フネを組み立て始める。10年以上前に買ったフェザークラフトのK-1である。数千キロあちこち旅をして穴あき、傷つき、船体布は色あせてはいるが、まだまだ現役。おそろしく頑丈なフネだ。本当に感心する。1日のツーリングで使うにはちょっと重いが、乗っていると気分が高揚してくる。

 8時、出航。

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5月南紀山はシイの花で金色に彩られる。トビが広い谷間を舞う



[2007/05/31 00:38] フィールドニュース | TB(0) | CM(0)

古座川へ(2) 

 高速道路を走って大阪から和歌山にはいっても、まだまだ南紀への道のりは遠い。兵庫県加古川市から和歌山までは1時間半くらいで到着するのに、そこから古座川まではまだ3時間かかる。近畿地方ではいちばん辺境にある川だ。

 大阪方面からの道だが、国道42号線を串本・古座川町と紀伊半島の海岸沿いに東へとぐるりまわって、加工から川沿いを上流にスタート地点に向かうより、串本町にはいってすぐの国道42号線を和深交差点で県道39号線にしたがって北へと山を越えるのがよい。古座川は日本最南端の川であるから南に流れていると考えがちだがそのじつ山の中を東流している(なお、県道39号線は入りっぱなが集落の中の生活道路なので徐行を)。



 三尾川(みとがわ)橋を渡って古座川に到着したのは5月19日の午後6時半。陽はすでに落ちた。日暮れまでの間に野営地を探す。広い芝生張りの運動場があって、そのわきから竹林を抜けて川原に降りる。

 玉砂利の川原に河畔林が覆いかぶさっていて、絶好の野営地だ。寝床はここに決める。車から荷物を下ろして川原へ。車のキーをロックして、川下りのスタートとなった。

 携帯電話の電波ももう届かない。最近は四万十川などかなり辺境の川でも電波がとどく地域が多くなってしまった。携帯電話の電波がとどかないことが、ちょっとしたぜいたくである。眼前には清冽な流れとスギ・広葉樹の混じった山壁が外界から隔絶してくれている。

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 今回の旅は天気がよさそうだったので、テントは持たずタープのみだ。食料もほとんどなし。コメを持ってきただけ。しばらく単独行をしていなかったこともあり、1泊だけの旅だが身軽に、またちょっとハードな旅に演出してみたかった。

 ここ何年か1人で川下りをする機会が減っていた。せっかくだからと、行きたいという人を連れて行くことが多い。すると行動が緩慢になり、食事の準備も面倒になり、さらには川の印象も同行者の存在にかき消され薄められがちになる。またせっかく連れていってもその後同行者が自分で川を下るようになることはほぼ皆無。カヌー下りというのはもともと相当めんどうな遊びだから、無理もないのだが。

 同行者がいる最大の問題は、地元の人と話す機会が圧倒的に減ってしまうことにある。食堂にはいっても、同行者がいないと自然に食堂の店主らと川の話題になる。知人・友人、しかもいっしょに川下りをするような親しい間がらの人と行くと、こういう貴重な機会が減ってしまう。なんのための旅なのかわからなくなる。川旅は川という天然とそれをとりまく人との間(あわい)を味わいに行くのであって、それ以外ではない。



 晩飯は食わず。そのまま夜8時に寝袋に入って野天で横になる。こんな時間に寝るのはひさしぶりである。川面からはピシャリ、ピシャリとアユが跳ねる音。糸のような三ケ月。頭上の薄暮と木影を背景に、カワゲラが音もなくスウと川へ飛んでゆく。

 ウトウトしていたら背後の竹林で

「バリバリッ」

と音がする。びっくりして体を硬直させ耳を澄ます。ガサリ・ガサリと音の主は近づき、枝を踏み折る音がどんどん大きくなってくる。すわクマか。バキバキと枝を踏み折るくらいだから足の大きな動物に違いない。

 音があまりに近くなった。一瞬、身をひるがえして飛び起き、カヌーのパドルを手に立ち上がる。「誰やッ!」と声を上げた。竹林は真っ暗で見えないが、相手もこちらを見ている。音なし、闇の10秒。

 ポケットのライターに手を伸ばして火を付けると、突如大きな足音を立ててヤブを蹴散らしながら川下へ去った。



 いきなり眠れなくなった。ウトウトしては足音に目を覚ます。どうもケモノ道のすぐそばに寝床を構えてしまったらしい。何度も現れるところを見ると、クマのような数の少ない動物ではなく、シカのようだ。そういえば、集落付近の田畑は軒並み電気柵がほどこしてあったなあ、と思い出す。

 ウトウトしては「ガサガサ、バキバキ」に目を覚ます。だんだんずぼらになってきて、寝袋に入ったまま「オイコラ、シッシッ」と声をあげ、パドルをカンカンと石に打ち当てて追っ払う。

 今年の5月はいやに冷える。気温が10度程度まで下がってしまった。夏用の寝袋では眠れず、ありったけの衣類を身につける。それでも寒いので未明に起き出して水筒を火にかけ、湯たんぽにし、股に挟んで眠った。

 1時間ほど眠ったら漆黒の闇は早くも紺色に色づいてきた。




[2007/05/26 22:54] フィールドニュース | TB(0) | CM(1)

古座川へ(1) 

 年来の課題だった南紀古座川のツーリングをようやく実行した。

 5月中旬のいちばんいい時期に下ったことを割り引いて考える。それでもこの川は現在のところ日本でも随一のツーリングコースと断言できる。理由はいくつもあって、

1、水質がとてもいい。下るほどに良くなる印象
2、アユ釣り師との共存が成り立っている
3、カヌーを運搬してくれるタクシーサービスがある
4、レンタルカヌーも非常に安価で営業している
5、水源になっている上流部のダムのほかは堰が皆無
6、広葉樹林がわりに残っている
7、川をとりまく山容に奇岩が多く飽きない
8、川岸のゴミがえらく少ない

などなど。これくらいみごとに美点がそろった川も少ない。デメリットも少ないながらあり、たとえば大河川ではないので漕行距離がかせげず(約20キロ)ロングツーリングができないことがあげられる。また大阪からでも4時間くらい車を走らせなければならない遠さがあるが、これは今やまともな川下りをするには少数の例外(長良川など)を除くとしかたがない。

 それらのデメリットは数多くの利点がおぎなってあまりある、21世紀に残った銘川だ。

 古座川を何回かに分けて紹介したい。ちなみに急いで書いておくと、6月に入るとアユ釣りが解禁になりカヌーで漕げる区間が制限される。行くなら今週末です。

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[2007/05/23 23:52] フィールドニュース | TB(0) | CM(0)

フライフィッシングに行く(2) 

 曇川はこの時期、水位の人為的な上下が激しい。毎年4月末に周辺の水利組合が合同で水路の掃除をし、その後で水路に水が導かれる。そうなるとあとは水田に水が引かれるのを待つばかりだ。

 東播地方は日本でも有数なくらいこの田植の時期が遅いように思います。もっと温かい高知県などへ行っても、田植はずっと早くに終わっている。全国の田植時期ランキングを作ったらおもしろいかもしれません。きっとかなり遅いほうに入るはずです。

 閑話休題。

 フライフィッシングの練習に行った曇川はあいにく水が少なかった。でもあちこちでオイカワが波紋を作ったり水面から躍り上がったりしていて、水棲昆虫を盛んに食っているようす。これなら行けるかもしれない。

 北海道で知ったフライフィッシングだったが、たくさんのフライフィッシャーマンが教えてくれなかった大事なことがある。それは、

「初めて行くときは、風の日は万難を排して避けるべし」

ということだ。じつはこの日に先立って風の強い日に練習に行ったのだが、まったくお話にならない。糸の重さだけでフライ(毛針)をポイントへ投じるフライフィッシングは、ちょっと強い風が吹いていると投げられないのだった。しかも、糸を前と後ろに何度も反復運動させて投げるから、前後に同じくらいのスペースが要る。前のスペースは水面だから広いが、後ろが広々と開けている釣り場など日本にはない。空中で放物線を描いているはずの糸がすぐに背後の木や草にからまったりして、ほんとうに面倒なもんだ。

 地上でいちばん面倒くさい釣りでしょう。

 リールにしたって、手の力を利用した超精密マシンに発達しているルアー釣りなどと違って、単なる糸巻きでしかない。魚がかかったら、リールで巻き上げるのではなく手でたぐり寄せるのです。しかも釣り鉤にはカエシのない「バーブレスフック」を使ったりする。魚の取り込みでは釣り糸をピンと張っておくのが大事なのだが、手でたぐり寄せているとそれがとてもむずかしい。人間側のハンデキャップが尋常ではなく大きい釣りなのでした。

 さらにさらに。毛鉤はとても繊細にできているから、濡れるとすぐに水中に沈んでしまうようになる。そうすると水面に出る魚を釣ることができなくなり、数回フライを投じては乾かす作業が必要になってくるのだ。濡れしょびれたフライを天花粉のような粉の入ったビンに放り込んで、シャカシャカと振って乾かす。あるいは専用のワックスを指にちょっと付けて毛鉤の毛1本1本に塗り付けて浮力を確保する。モー七面倒ったらない。

 2回目のトライとなった日は、ちゃんとウェーダーを履いて川の中に立ち込んで釣った。こうすると岸に毛鉤を引っかけることがなくなる。しかし、こんどは振っているサオ自体に毛鉤が引っかかったりして、どうしようもない。開高健がフライよりルアーにはまったのは、じっさいはあまりの面倒くささに耐えられなかったのではないかと推測します。

 しかし、こんな面倒さをすべて乗り越えると、1匹の魚の重みがまた違ってくるのは確か。この日は合計5尾のオイカワを釣り上げたのだが、ほんとうに感激しました。12─13センチの魚を5匹釣って、あれほど満足が得られるとは驚きです。

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 かつてこの川ではじめて釣りをした中学生のときの感動をまた味わったように思った次第でした。

 ルアー・フライの擬似餌釣りは人間がハンデを負って釣りを面白くしようという試みですが、ルアー釣りは結局効率的に魚を釣り上げるために何でもアリ、という面がいささか強くなってきているんじゃないかと思う。本物の魚かと見まがうほど精巧にできたソフトプラスチックのルアーを使い、ブラックバス釣りなどではパワーボートまで動員して魚を攻め立てる。せっかくもうけたハンデをなくしていく方に発展している。

 フライはルアーとはまた違って、最初っから人間のハンデがめちゃくちゃに大きく、また大きいままに楽しんでいこうとする釣りだと心得た。



[2007/05/02 00:57] フィールドニュース | TB(0) | CM(0)

フライフィッシングに行く 

 川のあちこちでコイがドボーンとはねる音が聞こえる中、フライフィッシングの練習に行く。行き先はいつもの曇川(くもりがわ)

 フライフィッシングをやろうかと本気で思わせてくれたのは、北海道の釧路川の河畔の宿「鱒や」のご主人、橘利器さんと、鱒やに泊まっていたたくさんのフライフィッシャーマンたちだった。

 一昨年の9月、ちょうどアメマスの好期にあたっていた北海道は、カヌーツーリングとルアー釣りを目的に北海道入りした私と弟を狂乱させてくれた。アメマス55センチ(これでもでかくない)やサケの産卵遡上。あまりにおもしろかったおかげでカヌーのほうは海までたどりつけなかった。

 毎晩毎夜、フライフィッシングがいかにおもしろいか、いかに奥深いかを「ニジマス60センチ」などという偉大な釣果とともに聞かされ、その気になってしまったのだった。ルアーは魚の反射神経や好奇心に訴えて釣る部分が多いのだけど、フライフィッシングは「その時その場所で魚が食べている昆虫」をフライに託して釣る。生態系の深い理解は、そのまま釣果や釣りの面白さにつながってくる。

 道東の川は倒木が川の中にたいへん多い。台風がないから倒木が流失せず、また気温が低いため腐食も遅いのだろう。「ルアーの墓場」と言われている。ご多分にもれず連日ルアーをなくしまくり、自分で作れるフライならダメージが少ないな、と別の下心もあった。

 ルアーの値段はスプーンなら1個数百円から高価なプラグになると2000円以上する。これが1日10個近くもなくなると、かなりヘコむ。たんに金銭的なダメージだけではない。持って行くルアーは吟味に吟味を重ね、釣り具屋で何時間もサイフと相談しながら呻吟して選び出したオールスターである。釣り場では気にいったルアー(=釣れそうなの)から順番に使っていくので、タックルボックスの中はだんだん釣れなさそうなルアーばかりになってくるわけだ。

 フライなら自分で毛針を巻けば安あがりである。しかも、代表的なドライフライを使った釣りは、魚が水面に浮かんだフライを食う瞬間を見ながら釣ることになるので、めちゃくちゃに痛快だ。これは水面型のルアー(トップウォータールアー)を使った経験からも簡単に理解できた。

 さらなる魅力として私は昆虫好きなので、その時、その場所にいる昆虫(主にカゲロウなど)を観察してフライを作って釣るというのはいかにもおもしろそうである。

 そんなわけでつい先日、ようやくサオとリールほか必要なものを揃えたわけである。リバーランズスルーイット(この映画の邦題は最悪ですね)に1歩近づいた。

 始めて練習ラウンドにでかけたのは、相変わらずのふるさとの川、曇川なのでありました。

 本題にはいれませんでしたね。(つづく)
[2007/04/24 23:47] フィールドニュース | TB(0) | CM(0)

野生哺乳類の観察はなぜメジャーな余暇にならないか 

 オーストラリアの森林を歩いていてわかったことがある。野鳥の観察を趣味にする人は多いのに、なぜ哺乳類観察は趣味として成り立ちにくいのか。

 端的にいって、野生哺乳類の観察は難しすぎるのである。

 森を歩いているとワラビーを何度も見かけたが、見つけるのはぜったいにあちらが先である。つまり「哺乳動物を見つける」というのは「動物に見つけられたことに気付く」というのに等しい。ワラビーは2足ピョコタン式歩行だから落ち葉の上でけっこうな足音を立てて歩く。歩いていてバサッバサッと音がした場所を見ればヤツがいるというわけ。とても見つけやすい動物だ。それでもあちらに気付かれずに見つけるのはほとんど不可能だ。

 よくよく見ていると、ゆっくり歩いているときは前脚も使ってゆっくり歩きつつ地面をかぎ回り、食べる草を探している。大きな足跡が聞こえるということは、つまり人間にビックリして飛び跳ねたということだ。トレッキング中に6、7頭を見たけれど、ワラビーがこちらに気付くより先にあちらの存在を知ることはなかった。森が静かであればまず100%こちらの負けである。

 これがタヌキなどの四足歩行動物になるといっそう難しくなり、カワウソのように水中に潜られるとさらに手が着けられなくなる(それでもカワウソは川沿いだけを動いてくれるのでじつはまだずっとマシ)。

 ぎゃくに鳥類はほんとうに観察しやすい動物だ。歩いているだけで次から次にいろんな種類が現われる。飛んでいてくれれば背景が空になるから動きが見えやすい。しかも鳥自身は空を飛べることで人間からの距離を保ちやすいからけっこう安心して大胆に行動してくれる。よくさえずるから、ずっと遠くから存在に気付いて近寄っていくことも可能だ。

 哺乳動物の存在に人間のほうが先に気付くのはほんとうにまれなことだ。ヒグマに襲われる事件というのは人間とクマの距離が気付かないうちに詰まってしまった時によく起きる。たとえば風が強くて足音が聞こえず、ヒグマが人間の接近に気付かなかった場合などである。こうしてヒグマが気付くまえにヒグマのプライベートスペースに人間が入り込んでしまい、そのクマが子持ちであったりするときに悲劇が起きている。

 かつてカヌー旅行をしていたときにアラスカの森の中を歩きながら「クマなんかぜんぜん出ないな」と思っていたけれど、実はクマはすぐ近くにいたのだとおもう。ワラビーのようには慌てず、じっと人間(私)が通りすぎるのを待っていたか、ゆっくりと歩き去ったかどちらかであったのだろう。

 静かな森の中を歩いていると、人間って1人で歩いていてもほんとうにうるさい動物だ。足音は大きいし靴はギューギュー音を立てるし、ザックはギシギシきしむ。ジッパーや金具のたぐいがチャラチャラ、プラスチックのバックルがカタカタ鳴る。どんな動物が出るかと身構えて歩いているのに、自分自身がほんとうにうるさくて仕方がない。

 「鳥の観察は鳴き声も楽しめるし、姿も美しいものが多い」という解説もあるけれど、それは哺乳動物も同じ。しぐさを見ていればほんとうに興味は尽きないものだ。だけど、哺乳動物は圧倒的に発見するのが難しく最初のハードルが高い。それがメジャーなアクティビティにならない最大の要因だとちっちゃなワラビーを見ながら思った。


[2007/01/26 02:29] フィールドニュース | TB(0) | CM(3)

豪州ラミントン国立公園 

 オーストラリアに行ってきました。東部ゴールドコーストです。

 ブリズベン周辺の海岸部は長大な砂浜海岸がえんえんと続き、一大リゾート+テーマパークで占められています。ゴールドコーストは延長42キロも続く白砂海岸で、どこでもサーフィンができる。で、けっこう楽しんできました。自分があまりにヘタになっているのに絶望しながらでしたけども。

 勤める会社の社員旅行とはいえ、リゾートだけでは面白くないので1日を費やしてラミントン国立公園を訪れました。「オーストラリア中東部の多雨林保護区群」として世界自然遺産にも登録されている地域です。にぎやかで人だらけのゴールドコーストの中心地から1時間のドライブでこの高原地帯にある国立公園にたどり着きます。標高は1000メートル弱。

 オーストラリアで同行の知人たちとなんども話し合ったのが、「暑いのに蚊がいない」ということです。ハワイにもあまりいませんね、蚊というのは。で、これまで行ったところではアラスカと南米にはメチャクチャにいて、フィリピンにはけっこういる。そして日本にはご存知のとおりけっこういる。そしていちばんカユイのが日本の蚊です。アラスカの蚊は場所によっては発狂しそうなくらいの数が襲ってきますが、刺されてもかゆくて困ることはあまりありません。また、アラスカや南米など未開地の蚊は概してトロく、すぐにたたきつぶせます。吸血相手に取りつく時に直線的に飛びついてくるので飛行経路が読まれやすいようです。日本のヤブカのフラフラ舞いは世界の「カ界」においてもかなり洗練された飛行形態といえるかもしれません。

 ゴールドコーストは海岸からすぐ内陸にはいると細い水路がたくさんあり、蚊地獄になっていてもおかしくなさそうなものですが、いない。なんでだろうと素朴に話し合っていたのですが、このラミントン国立公園を歩いて疑問が氷解しました。というより、思いだしました。

 つまり、人間やイヌみたいな超コスモポリタン動物以外は、動物の生息範囲というのはごく限られているということです。常識的なことですけれども、自然の豊かな亜熱帯の国立公園を歩くことで思いだすことができました。

 クーメラ滝往復の約12キロ。亜熱帯林の多雨林で、ユーカリその他の高木が林冠を作り、林床は落ち葉が降り積もったかなり湿ったトレイルです。涼しい涼しい。インフォメーションで詳しいコースガイドを買い、どんな動物に出会えるか聞き込みます。鳥類が中心ですね。哺乳類ではワラビーが見れるかどうか。夕方が有望とのこと。両生・爬虫類は難しいかな、という感じ。あとは運がよければアオジタトカゲが出るそうです。アオジタトカゲはノロマだそう。あまり出ないとはいえ、オーストラリアは世界でいちばんヘビのうちに占める毒蛇の率が世界でいちばん高いので、出くわしたら注意が必要です。

 月曜日だったこともあって、ほとんど誰も歩いていませんでした。最初はやや湿り気の多い林内を歩いていきます。鳥の声がうるさいくらい。鳥類は詳しくないのでいつも悔しい思いをする。次から次からいろんな鳴き声が聞こえ、「ウミャ〜〜〜〜」とネコみたいな鳴き声を交わすGreen Catbirdの声が印象的でした。あと、まったくわからないのですが、遠方から笛の音が近寄ってきて走り去るような音を出すセミ(?)らしき声も。(ラミントン国立公園のサイトはこちら。鳥の鳴き声も聴けます。サイト下部のwildlifeをクリック⇒http://lamington.nrsm.uq.edu.au/MainMenu.html

 歩き出すとすぐにワラビーが現われた。なんだ、こんなすぐに出るのか。驚くと後ろ足だけを使って飛び跳ねるので、林床でペタンペタンと大きな足音を立てるからすぐわかる。都合6、7頭を見た。Red-necked Pademelonというやつ。体長が30センチくらいのほんとに小さいやつもいたし、50センチくらいの大物もいる。

 このコケだらけの湿った林を抜けて低い稜線を越えると地面が乾き、すると一気に動物相が変わりました。それまでいたワラビーをぜんぜん見なくなり、いきなりカナヘビ(日本にもいるガサついた感じのトカゲ)が足元をしょっちゅう走りだす。さらに歩くと草原じみた乾いた林縁部へ。するとカナヘビが一気に減り、こんどはスキンク(ニホントカゲのようなすべすべしたトカゲの類)が一気に増えた。

 本当に10メートルくらい進んだだけですぐに動物の種類が変わる。そういえば日本でもカナヘビは草っ原に多いし、ニホントカゲは石垣にいたなあ、と思い出す。

 たまたま旅行に持って行った「クオリア」の脳科学者・茂木健一郎の著書『すべては脳からはじまる』(中公新書ラクレ)の前書きが「アマゾンに行ったときには、爆発的と言ってよいほどの豊かな多様性に幻惑された。ジャングルの中を歩いて出会う蝶が、すべて異なる種類である。」(p3)と書きだしているのだけど、そうだそうだ。自然が豊かなところって、こんなんだった。ものすごく小さな環境の違いで動物も植物も棲み分けているんだった。

 ハワイにも蚊はいて、人間が持ち込んだそうです。でもいくら暑くてもちょっと湿度が低い季節にはいなくなってしまうんでしょう。オーストラリアにも蚊はいるのかもしれません。しかし核心は、温かい時期いつでもうじゃうじゃ蚊がいる日本のほうが、いかに1年中湿った気候であって、いかに動物にとって暮らしやすい土地であるか、ということなのでしょうね。

 帰り道には大きなトカゲLand Mulletを見ました。堂々たる風貌の真っ黒なスキンクです。サイズは国立公園の説明書きをみると30センチとありますが、もっと大きく見えました。こいつもモッサリしてて、お腹をひきずりながら歩き去りました。でかいですが、食べているのはキノコや果実だそうです。なるほどゆったりしてるわけだ。


[2007/01/25 11:08] フィールドニュース | TB(0) | CM(0)

カワウソをめぐる大事件(6) 

 話はダムめぐりに戻ります。三重県と奈良県の県境に近い蓮(はちす)ダムへは宮川ダムから1時間のドライブで到着する。ダムの管理事務所でカワウソに関する情報がないかを尋ねました。

 「そういうデータはありません」

エラソーな国交省職員30代若造に言われる。頭に来るが時間がないので放っておきます。

 サルが走り回っているダム湖。車で1周して周囲を見て歩くことにしました。この蓮ダムも猛烈な堤高があり、ダムを境に上下することは不可能です。下流とは完全に隔絶されている。ダムに流れ込む川を見ましたが、あるものは砂防ダムで仕切られ、あるものは小さすぎます。

 とてもじゃないが、蓮ダムは狭すぎてカワウソが個体数を維持できるような生息環境ではないことが判明しました。1頭や2頭が一定期間棲むことは可能でしょう。しかし遺伝的に無理なく世代交代ができるような数のカワウソが生きていけるような場所ではありません。

 しかしカワウソらしき動物がダムに紛れ込む可能性はある。というのも、かつて動物園からカワウソが逃げ出した事件が三重県で起きているからです。こんどは住民に尋ね歩くことにしました。

 役場や教育委員会に電話をいれたりして歩いているうちに、偶然訪ねあてたのが、93歳にもなる村の長老的なおじいさんでした。この人が小学校1、2年生の時に、辻堂と呼ばれた今は湖底に沈んだ集落で、山本という人がカワウソを捕まえたのを見たことがある、と言います。「おおお……」という感じです。

 ほとんど1世紀ちかく前のことです。カワウソを実際に目にしたことがある人がご存命だというのは四国以外では珍しくなっているので、いい体験をしました。逆にこんな超高齢の方しかカワウソを見た人はいないということなのですが。

 飯高町森集落で、地元の生物に詳しい辻本さん(雑貨店経営)に話を聞きました。このダムは平成3年に完成した比較的新しいダムですが、ダム直下から大支流までの区間で水が涸れてしまい、川に入る人が本当に少なくなってしまったということです。

 ダム管理事務所には異様にたくさんのパンフレットやはがきが配布用に置いてある。『はちゅ〜す』というダム情報誌(?)まで発行している。ホームページもやたらと充実していて、宮川ダムとは大きく違う。それだけ建設に力を入れたということだろうか。
[2006/12/14 23:56] フィールドニュース | TB(0) | CM(0)

カワウソをめぐる大事件(5) 

 では、肝腎のカワウソの写真です。3つの写真をお見せします。

1つめ:中井氏がウェブサイト「自然に学ぶ」に掲載していた写真
2つ目:中井写真を左右反転したもの
3つ目:『カワウソはいきている』(大西伝一郎著、草土文化社)の写真
ブログのレイアウト制限がありますので、サイズは同じにしてあります。

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 この3葉の写真を見ただけで、『カワウソはいきている』に掲載された1979年撮影の写真を反転させてデジタル的にぼかしたものであることは一目瞭然です。中井氏が1979年に撮影した自分の写真を改変した、という可能性もありますが……いや、ありません。残念ながら。

 中井写真の左端は、しっぽのなかばで切れていますが、ここに『カワウソはいきている』のページの綴じ目(書籍業界でいう「のど」)があるのです。つまり、中井氏が写真を手に入れたのは同書のスキャンである可能性が非常に高い。いや、ほぼまちがいないでしょう。

 中井サイトの下部には「画像等の無断掲載、転用を禁止します。」などと書いてあって、合掌したくなります。

 ここまで調べたうえで、熊谷さんは科学教育研究会(SSTA)大阪支部に疑問を呈しているわけです。この写真はカワウソを専門にやっていれば間違いなくカワウソと断定できる写真であり、私たちもそう判断したからこそ三重県に行ったわけだ。私たちが最初にこの偽情報を発見し、ウソを暴いたから歴史は曲がらなかった。その点は評価されてもいいだろうと思う。

 これが三重県だからよかったが、高知県西南部でこんな写真が撮影されたとあれば、まず新聞のトップはまちがいなし。翌日から大挙してマスコミやカメラマンが発見場所を探し回る大事件になる。そのあげく写真が捏造であったと分かれば、中井氏は社会的に抹殺されるしかなかったろう。旧石器の藤村氏みたいに。

 三重県でよかったね、中井さん。

 さあ、「科学教育」を標榜するSSTAはどうするのか。これでもリンクを続けるのだろうか。科学の倫理を揺るがすような行為に走った人物のサイトに。


[2006/12/13 23:54] フィールドニュース | TB(0) | CM(2)

カワウソをめぐる大事件(4) 

 中井昭行サイト「自然に学ぶ」でのカワウソに関するページ(http://www4.kcn.ne.jp/~fuji-y/nakai/nihonkawauso/)、問題を本人や関係者に指摘した後も掲載が続いていたが、ついに消滅しました。

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 わたしが消滅に気付いたのは11月30日です。即刻カワウソ研究会のメンバーに連絡しました。このブログでもたびたび登場する熊谷さんはさっそく自分のブログのエントリーを更新しました。

 この「自然に学ぶ」のサイトにどれくらいリンクが張られていたのか。linkコマンド(link:www4.kcn.ne.jp/~fuji-y/nakai/をGoogle検索)で調べるとソニー教育財団(http://www.sony-ef.or.jp/)につながる自主運営組織「ソニー科学教育研究会(SSTA)」がリンクを張っているのが分かります。実際に張っているのはSSTA大阪支部(http://osaka.ssta-web.sony-ef.or.jp/)とSSTA奈良支部(http://www006.upp.so-net.ne.jp/fuji/index.html)です。奈良支部の紹介を受けて大阪もリンクを張ったという経緯が記されていました。(http://osaka.ssta-web.sony-ef.or.jp/narakensibu.htm)

 この大阪支部の掲示板(http://www3.ezbbs.net/33/sstaosakasib/)に熊谷さんが警告の書き込みをしています。



       ………………………………………………………………………………
中井氏のニホンカワウソ写真について
名前:かわうそ 日付:11月27日(月) 15時22分

中井氏が撮影したという「三重県で撮影したニホンカワウソか?」の写真は、草土文化社の「カワウソはいきている」の昭和54年、新荘川のニホンカワウソの写真をコピー、拡大、反転したものと思われますが、いかがでしょう?かなり前から、一部の研究者達の間では常識になっております。

氏は、奈良県野生生物保護委員を拝名しており、また「自然に学ぶ」という養育関係のサイトに写真を提供している方にしては、あまりにもお粗末かと思われます。

貴サイトの責任ではありませんが、信頼してリンクしている以上、道義的責任があるのではないでしょうか?一応、行政、出版社、関係各位には連絡したのですが、今だ写真の掲載が続いているようです。
       ………………………………………………………………………………




 SSTA大阪支部IKEDAさんの答えは以下でした。



       ………………………………………………………………………………
かわうそ氏の指摘について
名前:IKEDA 日付:11月27日(月) 21時31分

当方はSSTA奈良支部からの紹介でリンクをしました。
リンク先の内容にまで責任を負うものではありません。
「日本カワウソか?」の写真の件についてニホンカワウソと断定しているものでは無いようですし、草土文化社の文献の写真もこちらにはなくコピー、拡大したものかどうかまで確認もできません。

リンク先のサイトの内容については、そのサイトを見た方が判断すればよいと思います。
       ………………………………………………………………………………



無責任、と言いたいところですが、好意的に解釈すればSSTAのIKEDA氏も中井写真と『カワウソはいきている』(草土文化社)の写真をこの時点で比較できていませんから、無理もなかったかもしれません。おそらく、これほど露骨なパクりをやるとは思っていなかったのでありましょう。とはいえ、「確認もできません」などと即日返事するのは軽率です。「書き込みありがとう、確認してみます」と単純に書いておけばベストだったでしょう。

 それより、科学教育研究を標榜しているのですから、中井サイトにこれからもリンクを張り続けるかどうかのほうが問題です。張り続けるのなら、SSTAの態度には大きな疑問があると言わざるをえないでしょう。

 肝腎の捏造写真については次回に詳しく。
[2006/12/12 20:39] フィールドニュース | TB(0) | CM(0)